「10年後もまだ研修中」だって?勘弁してくれ

日経メディカル ワークス ロゴ日経メディカル ワークス ロゴ

医療・介護・福祉・歯科で働く従事者の働き方とキャリアを考え、
最適な仕事探しをサポートする、日経メディカルとジョブメドレーが共同運営する情報サイトです。


インタビューヘッダー画像
INTERVIEW2016-04-15
インタビュータイトル画像
プロフィール画像

プロフィール

公共社団法人地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター 管理者
神山 潤

こうやま じゅん氏○1981年東京医科歯科大学医学部卒業、2000年東京医科歯科大学大学院助教授、2004年東京北社会保険病院副院長、2009年より現職。


 子どもの早起きをすすめる会発起人を務めるなど、早くから睡眠の重要性を訴える一方、365日24時間断らない小児科を立ち上げた経験を持ち、今は施設の管理者として多忙な毎日を過ごしているのが公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター管理者の神山潤氏だ。神山氏は医療の今後についてどう感じているのだろう?


豊田 先生はこれまでどんなご経歴をたどられたのでしょうか。

神山 最初、東京医科歯科大学の小児科に入局しました。普通、大学の医局に入局すると、関連病院に出向しては大学に戻って、ということを繰り返すことが多いと思いますが、私は最初の1年間こそ大学にいたけれど、その後、10年はずっと外回りをしてたんです。臨床しながら研究もしていました。大学に戻る前の最後の2年間は、旭川医科大学の生理学教室で研究しながら、週末は北海道の幌加内村の国保の病院で当直していましたね。。

 東京医科歯科大学に戻ってから、UCLAに基礎研究をしに留学する機会を得ることもできました。臨床と基礎の間を行ったり来たりですね。でも、2001年か2002年だったかな、教授から地域医療振興協会が新設する東京北社会保険病院(当時)を紹介して頂いて、24時間365日、患者を受け入れる小児科が必要というので教授は10人くらい小児科医を付けてくれました。ありがたいことです。地域の小児科の先生方も大変協力してくださって。いつでも受け入れる小児科ということで話題になりましたね。

 そうこうしているうちにこの東京ベイ・浦安市川医療センターが立ち上がることになったのですが、東京医科歯科大学は市川市に教養部があるんですよ。それで、「お前、土地勘があるだろう」、なんて理由で立ち上げから関わって今に至ります。

豊田 そんな白羽の矢の立ち方があるのですね。先生のご専門の小児科ではどういった研究をなさっているのですか。

神山 学生の時から睡眠に興味があったので、子どもの睡眠についてずっと研究してきました。今、外来では睡眠外来として、赤ちゃんの夜泣きから高齢者の不眠まで、幅広く診療しています。睡眠ポリグラフ検査を行っていると脳波の変化や筋電図の変化が見えるんですが、「あ、今、この細胞の電位が変わってこう発火したんだ」といったイメージが湧くようになりました。そうした知識を持っているかどうかで同じ臨床をするにしても見方が変わってくるんですよね。新しい視点で臨床を行うことができるという意味で、基礎研究の経験は役に立ちました。基礎と臨床を行ったり来たりするというのは良い経験でしたね。

豊田 疾患を理解したくて基礎研究に進むというお話はよく聞きますが、基礎研究を行ってきたことは臨床を行う上でもモチベーションや自信につながっているのでしょうか。

神山 私のモチベーションは、当時、睡眠の臨床や研究をしている人が誰もいなかったことです。「睡眠? 医者がやることなの?」という人が多かった。今でこそ不眠症が話題になりますけどね。誰もやっていないことをやっていたというのは自信にもなったし、モチベーションになったと思います。

 我々の施設は米国の専門資格を取得した医師によるトレーニングを導入するなど、様々な新しいことに取り組んでいます。こうした新しい取り組みは、他に参考になるようなモデルがないから、自分たちでいろいろと決めていかなければいけません。自分たちで考えて、良いと思ったことはやってみよう。やるかやらないか迷ったらやった方が良い。そう考えるのも、もともと誰もやっていないことに挑戦したいという気持ちがあるからかなと思っています。

豊田 新しいことを手がけるのは面白さがある反面、大変なことも多かったのではないでしょうか。睡眠外来という新しいカテゴリーを作ってこられて、どんなことが大変だったとお感じでしたか。

神山 あまり大変という意識はなかったですね。ただ、小児の眠りというとこれまでは育児の話と捉えられてきました。母親が相談するのは保育士さん、保母さん、保健師さんでした。基本的には私が言うことは彼らと変わらないのだけれど、私の場合、研究から得た裏付けがあってね、なんて格好つけて話をする。そうすると、母親の行動変容を促すことができるんですよね。

豊田 そのあたりは非常に興味深いのですが、最近、医療におけるケアの位置づけが高まっているというか、ケアの重要性が高まってきています。食べて栄養を付けないと病気も治らないというような。しかし、食べるというのは言語療法士や栄養士、看護師の仕事であり、医師の仕事じゃないと言ってきたところがありますよね。今の先生のお話ですと、育児に医師が加わることでQOLの改善が進んだというのは、これからの時代の先取りだったのではないでしょうか。

神山 これまで医師は医師しかできないことをやってきた。しかし、これから医師1人1人が、自分はどうやって食っていくのか、ということを考えなければいけないと思っています。小児科領域で言うならば、子どもが減ってきますよ、小児科医全員が食っていける時代じゃなくなりますよ、ということになります。

 私は、学校保健、育児に小児科医が加わっていく時代になっていくんじゃないかと思っています。疾患中心の時代から、健康中心もしくは子ども中心の時代の小児科医になっていかなければいけないのではないかと。少子化ですしね。下手してこれまで通りのやり方だと、小児科だけでは仕事が無くなってしまう可能性もなくはありません。もっとも小児科医なんかいらない、と育児などの専門家の方々からは受け入れられない可能性もありますしね(笑)。ともかくまだ変化にピンとこない先生もなかにはいらっしゃる。

豊田 なぜ変化できないのでしょうか。

神山 予防とかケアということを医学部教育でほとんどしていないからじゃないのかなと思います。新しい発見とか新しい治療の開発などはもちろん大事ですよ。一方で、医師に求められていることは他にもある気がするんですよね。私が最初に興味を持った睡眠は生活習慣にかかわるので、ケアとか保健に対するハードルが低かったのかなと思います。


対談画像1

豊田 新しい事実が分かるとか診断機器の性能がどんどん上がってくるなど、医学や科学の進歩によって病気そのものがどんどん増えています。私のようにこの10年ぐらいで医師となった身としては、やればやるほど病気が増えていって、治療法も増えて、という印象があります。そして、病気を見つけだして治療することが本当に患者さんもしくは患者さんのご家族のためになっているのか、分からなくなることもありました。

神山 病気中心の考え方も大事ですが、もう少し患者中心という考え方が広がっても良いと思いますね。実は私は、医師になるときに、小児科にするか、内分泌内科にしようか、麻酔科に入ろうかと迷ったんですね。麻酔科とか内分泌内科というと、この薬はこういう効果があるから、こういうふうになる、って自分が病気をコントロールするわけです。で、麻酔科とか内分泌内科かなと思って見学に行ったのですが、いまいちピンとこなかった。そんな頃、保健所で小児科の先生が検診をしている様子を見学していたら、母親がうんうんと納得しているところを目にしたんです。その瞬間に小児科だって思った。乳児検診を見て小児科に決めたから、疾患よりもケアに近いマインドなのかもしれません。

豊田 ところで、最近では原則予約制を掲げる診療所も出てきました。あるいは、初診はともかく再診で状態が安定しているのであれば、インターネット、パソコン越しの診察でもいいのではないか、という遠隔診療に対する注目もあります。患者の利便性や施設の経営の効率化などを考えたら、へき地だけでなく、都市部でも遠隔診療は有効ではないかという考え方です。子どもを診療所に連れて行くとかえって風邪がうつるから嫌だ、とか、子どもがなかなかおとなしく待っていられないから待ち時間が嫌だ、という母親の声もありますね。一方で、診察の基本は、「見て、聞いて、触れて」であり、それをしないのは医師ではない、という医師の意見もあります。医師に触れてもらって話を聞いてもらいたいという患者さんも多いですね。患者さんの要望が多様化する中で、医療はどのような形になっていくとお考えですか。

神山 医療の基本は「手当て」ですからね。実際に対面して診察してほしいという気持ちは患者さんにもあるでしょう。しかし、全患者を「手当て」するのは物理的に難しい。医師だってQOLを求める時代です。それを大事にしないと。徹夜で当直明けの外科医がオペしてはまずいわけだし、当直明けの小児科医がベストな診療ができるか分かりませんよね。質の高い医療が求められるならば、100%いつも「手当」するのは無理だと思います。

 昔は、へき地医療は気合いと根性でした。気合いと根性で80歳の医師がへき地に行った。拍手で迎えられて。そういう場面をテレビで見ますよね。でも1年経ったらそこから去るんですよ。しかも去るときの映像は流れないんです。そうではなくて、へき地医療をはじめとして、手の届かないところをどうカバーしていくか、を考えたとき、システムにしていかなければいけないと思うんです。それが地域医療振興協会のミッションでもあると思ってます。そしてそのシステムには遠隔診療というツールも必要になるかもしれません。今でこそ音と目ですが、技術の進歩は早いですから、いずれ触感だってにおいだって遠隔でも分かるようになるんじゃないですかね。確かにその場の空気とか雰囲気とか、難しいこともあるかもしれませんが、こうしたツールを使わないと物理的に難しくなっていくような気がします。今、当センターからある離島に医師を派遣しているのですが、1日の患者数は何人だと思います?

豊田 どれくらいでしょうか。少ないとは思いますが。

神山 1日3.8人ですよ、3.8人。その島には何千頭もウシがいるんで、絶対に必要なのは獣医さんです。でも、その島では医師を求めるわけです。自治体の首長さんのお気持ちは痛いほどわかります。でも一方で、その島に勤務する医師はあまりにも過酷な状況で辛いと思うんですよね。地域医療振興協会ですから、求められれば医師を派遣します。行きますと手を挙げてくれる若い医師もいます。でも、本当にこれっていいんですか、と思いたくもなるんですよね。若くて、トレーニングを積まなければいけない大切な時期ですよ。

豊田 例えば癌診療では均てん化が叫ばれ、全国どこでも同じレベルの治療が受けられるようにする、という話がありました。一方で、小児癌などでは、ある程度の施設に集訳しないと症例が集まらないし、経験も蓄積しないという話も出てきています。

神山 全国どこでも一律に質の高い医療を、というのはやはり難しい。旭川にいたとき、ブルガリアから留学生が来ていて、「日本はどこでも同じ医療が受けられると国民が思っているんだ」ってびっくりしてましたね。もう20年以上前の話ですが、ブルガリアでは田舎と町で受けられる医療が違うのが当たり前であったわけです。北海道でも都市部から離れると同じような状況が少なからずある。理想は確かに大事だけれど、現実には難しい。なのに理想を追いかけてしまってますから。

豊田 日本の医療は高い質を広く提供できていて、それはすばらしい一方で、そのためにどこかでものすごいひずみが生まれている気がします。米国と比べると日本は狭いですよね。確かに今までは10分で行けるところに病院があったけれど、車で2時間かかるようになったというと確かに不便ではあります。ただ、日本国民全員が10分で医療にアクセスできる体制の維持には膨大なコストがかかる。医療資源の配分をもっとかんがえていかなければならない気がするのです。

神山 確かに世界中見ても、誰もが10分で病院にアクセスできるところってないよね。

豊田 世界ではあり得ない話です。

神山 ただ、そういう考え方に日本人は慣れてない。小児科の医師がいなくなるから小児科を守ろう、適切に小児科にかかろう、というお母さんたちが活動したある地域の話が話題になりましたが、そういう動きはなかなか広がらない。行政にしたって、子どもをいつでも診られる病院を、というわけです。どんどん負担は増えるばかり。

豊田 コンビニ受診を推進してしまっています。一般住民ももっと医療を知ることが重要だと思い、私の会社ではそういうサービスを提供し始めましたが、もっと日本の国民が医療リテラシーを上げていかないと医療をダメにしてしまうのではないかと思っています。

神山 私は睡眠についての講演をあちこちで行っていますが、子どもに「風邪引いて熱が出たら病院なんかに行っちゃダメだぞ。まずうちで寝ていろ」と言ってます。あるいは小学校の低学年の段階で睡眠の重要性を教えています。高学年とか中学生じゃもう遅いですね。もう夜遅くまで起きて頑張るのが偉い、という価値観をたたき込まれてしまってるので。親に言ってもダメです。頭では分かっていても実際に早く就寝する人なんていないんだから。最適な時期に必要な教育をすることが重要だとつくづく思いますね。そういうこともこれから医師の仕事の1つになっていくかもしれません。

豊田 最後に、医師やこれから医師を目指す学生に何かコメントいただけませんか。

神山 東京医科歯科大学の小児科で医局長をしていたときに、「毎日、新聞を読め。あるいは月1冊は小説を読め」「白衣を着て飯を食うな」とよく言ってました。白衣って我々の作業着ですよね。その作業着を着たまま食事するって何考えてるんだと。一般常識から乖離するなって意味でも新聞を読め、って。

 今じゃ新聞じゃないかもしれないから、自分なりの価値観、哲学を持て、ってことかな。若い人と面接しているとき、「君たち、5年後、10年後、どうしてるの?」って聞いたら、「この施設で3年研修して、5年間アメリカに行って研修して、帰ってきたら専門医の研修して」なんて言うんです。「10年後はまだ研修してます」だってさ。勘弁してくれ、って思いませんか。いつまでもモデルを求めてしまっている。でも、医師という資格をもらったんだったら、モデルを追うのではなく、自分で決めて、未知なことにチャレンジして欲しいと思うんです。そのとき自分の価値観、哲学が無いとぶれちゃうでしょうから、自分なりの価値観を持って欲しいと思います。

 ベテランの先生方には、若い人と話をする機会をぜひ、積極的に作ってほしいと思います。初めは面倒だと思うかもしれないけど、若い人と話をしているとこちらも活性化されますからね。若い人と話をしていると、「何だ、このやろう。俺の若いときは・・・」と思うときもありますけれど。同じ世代で気心の知れたところにいるのも否定しませんが、ほんの1割、2割でもいいから若い人と話をする機会を持つと、想像以上の刺激があると思いますね。


【インタビューを終えて】穏やかな笑顔と口調でしたが、小児科医療や僻地医療が直面する課題に対して、真正面からお話しいただけたのではないかと思います。先生が最後に話された「医師という資格をもらったんだったら、モデルを追うのではなく、自分で決めて、未知なことにチャレンジしてほしいと思うんです」という言葉がとても印象的でした。(豊田)





医療・介護・福祉・歯科業界で働いている方、働きたい方のための総合情報サイト 日経メディカル ワークス

日経メディカル ワークスは、日本最大級の医療従事者向けポータルサイト「日経メディカル」と日本最大級の医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が共同運営する医療・介護・福祉・歯科従事者のための総合情報サイトです。『「10年後もまだ研修中」だって?勘弁してくれ』のような、医療・介護従事者が気になる情報を毎日提供。働き方やキャリアについて深く掘り下げたコラム・インタビューも配信しています。また、そのほかにも病院、薬局、介護施設、保育園、歯科医院などの事業所情報も幅広くカバーし、全国177982件にも及ぶ事業所の情報を掲載(2019年11月12日現在)。求人の募集状況なども確認することができます。