料金もインフォームドコンセントの一部になる

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INTERVIEW2016-04-22
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プロフィール

恵寿総合病院 理事長
神野 正博

かんの まさひろ○1980年日本医科大学卒業、金沢大学第2外科、富山県立中央病院などを経て、92年恵寿総合病院外科部長、93年院長、95年からは社会医療法人財団薫仙会理事長。


 石川県七尾市を中心に総合病院から診療所、介護老人保健施設やデイサービスなども手掛ける神野正博氏。ほかにも、全日本病院協会副会長や日本社会医療法人協議会副会長、中央社会保険医療協議会入院医療等の調査・評価分科会委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部日本版CCRC構想有識者会議委員、医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会構成員などを務め、日々、石川県と東京を往復する日々だという。


豊田 最近の技術の進歩は著しく、新たな技術が医療を変えようとしていると感じるのですが、先生は医療の変化をどのようにお感じになっていますか。

神野 私が医者になってから36年ぐらいになりますが、ずいぶん変わりましたね。私が医師になった当時、婦人科の手術もしたし、皮膚科も診たし、「今日、耳鼻咽喉科の医師が不在だ」といったら額帯鏡を付けて診察したり、と「何でも屋」でした。患者さんの専門医志向もあって、今は専門分化していますよね。総合的に患者を診る医師が少なく、危惧しているところです。新しい専門医制度下で総合診療医が増えていけばまだ時代は変わっていくのかなと思っていますが。

 それから、インフォームドコンセントの点は大きく変わりましたね。患者にしっかりと説明した上で患者と合意するのは時代が求めていると思います。自分で何でも決めたい患者さんにはしっかりと説明し、合意を得ることが必要ですよね。一方で、高齢で、テレビのリモコンでさえボタンが多すぎて分からないという患者さんに、手術の同意書だ、検査の同意書だ、術後の危険性だ、と紙を渡して全部にサインさせるというのは、「先生、もうお任せしますよ」という考えの患者さんの望むことではないだろうし、ニーズが多様になっていると感じます。インフォームドコンセントは重要だけれど、説明してサインをもらうことだけではなく、患者さんの納得感があることが大切だと思うんですよね。

 インフォームドコンセントというと、もう1つ大事なことがあると思うのです。実は、先日、外国人患者を受け入れる施設の認証に関するシンポジウムがあって登壇したのですが、客席から海外の方が「日本の医療って料金が分からない」と発言されたんです。「日本の医療は最高ですよ、外国人もウェルカムです、というならば料金体系をはっきりしないとね」と言うのです。それにはある程度納得できるところがあって、おそらく日本人も同じになると思うのですよ。今は高額療養費制度があってどんな高額な治療であっても支払うお金はかなり少なくて済みますけど。現在、様々な商品の料金がその場でタブレット端末なんかを使って目の前で概算見積もりが出ますよね。ひょっとしたら医療の世界でも、「血液検査を3回とCT撮影を組み合わせた標準パックならいくらです」という時代が来るのではないかと感じました。

豊田 私自身、医療現場にいた頃は、自分の医療行為がいくらなのか、ということを全く意識していませんでした。ただ、日本の医療費はどうなるのか? といったことを考える生意気な研修医で、このMRIを撮影する意味があるのか、とか、撮影しなくても患者さんに損は無いけれど、自分が安心を得るために撮影しているな、と感じることがありました。DPCがそれに近いところはあると思いますが、やはり医療費の明文化が必要じゃないのかなぁと思っています。

 ただ、そうするならば、診療の標準化を進めなければいけないとか、検査や治療をやらない勇気みたいなものを持てないとできないなとも思うのです。訴訟の問題などもあり、やらないことはやることよりもとても勇気が必要ですよね。

神野 昔の赤ひげ先生のように、「オレに任せておけ」と言えた時代なら、責任もあるけれど、「やらないこと」も可能だった。しかし、今は分業化していて、一方でチーム医療だから、やらないと「なんでやらないの?」と言われてしまいますからね。

豊田 先生はそのあたりをどう考えますか?

神野 難しいよね。実は、中国の廈門にある大学病院でIT化が進んでいるっていうので見学に行ってきたんです。そうしたら、ドクター一覧が壁に飾ってあって、それでこの医師だったらいくらとか、こっちの医師だったらいくら、とか選ぶようになってるんですね。で、ある医師を希望したら、今度は予定表が出てきて、「9時、9時半、10時は既に予約で埋まっていますが、10時半なら空いてますよ。ちなみに、こちらの医師だったら9時から空いてますよ」と案内するんです。

豊田 じゃあこちらの医師で、って選ぶ患者もいますよね。

神野 そう。そこまでは日本でもありうると思います。実際、予約センターがあるわけですからね。ただ、現状では値段が分からない。レントゲン撮影してもらうならばいくら、とか明示されて、納得できたら支払ってもらって撮影する。そういうのもインフォームドコンセントという考え方の中には入ってくる時代が来るのではないかと思います。

豊田 料金が提示されることで、患者さん自身も自らの生き方を選ぶ、予後の過ごし方を自ら選択する、ということになりますね。

神野 昔は「オレに任せておけ」って言って、在宅もやって、死ぬまで面倒見る、ってことを医者がやってきたけれど、今は医者がそこまで責任を負わなくなっていますよね。そうすると、誰が責任を負うのかっていったら、やっぱり患者さん自身だと思うのです。

 私が医者になった頃は、癌であることを患者さんに絶対に言わない時代でした。家族を呼んで、相談して、胃癌だったら胃潰瘍にしておこう、とか言ってね。回診の時、患者さんに分からないように、でも医師の間では意思疎通ができるように、わざとドイツ語で会話をして、なんてね。今から考えたら、信じられない世界ですよね。で、何かの拍子に患者さんに分かってしまってしまうと、「なんで言っちゃったんですか!?」なんて家族から怒られる。そんな時代でした。

豊田 そう考えますと、昔に比べてインフォームドコンセントは進んでいますね。情報を提供します。でも、決めるのはあなたです、と。良く言えば進んでいますし、悪く言えば医師が責任を取らなくなったというのには、医師の専門分化が進んだことも背景にありそうです。

神野 そういう意味で総合診療医が注目され、専門医の1つとなるわけですけど、かといって総合診療医が赤ひげ先生のように、「オレに任せておけ」という時代でも無いですよね。ただ、今の日本では諸外国に比べて専門医が多すぎると思います。だから1人あたりの症例数が少ないとか、集約化が進まないという話も出てくるわけで。臓器別の専門医の数が絞られていくことは止められない流れかなと思います。

 しかし、臓器別の専門医になるという夢が破れて総合専門医に、というのは避けるべきです。何でも無いように見える症状から鑑別診断できるような人が総合診療医です。ありふれた尿路感染症とか誤嚥性肺炎を呈している患者さんはもう星の数ほどいます。その中で、癌を見つけたり特殊な疾患を見つけたりするのが総合診療医だし、その見つかった疾患をきっちりと治すのが専門医ですよね。


豊田 手術支援ロボットのda Vinciが登場しました。今は同じ手術室にコンソールがあるけれど、コンソールは別の場所にあってもいい。もともと開発のコンセプトが、遠く離れた戦地の患者の手術をするというものでしたから。そう考えると、例えば外科という専門医がどこにどう存在すべきか、という考え方を大きく変えられる時代になってきている気がします。

 一方で、地域包括ケアのような話が出てきている。今までケアというと看護師や作業療法士をはじめとした様々な職種で診てきて、医師は治療に専念してきたけれど、医師もケアに関わることが求められるようになる。da Vinciのコンソールだけを見る医師とケアを含めて全てのことをする医師、という世界がそう遠くなく来るのではないかと想像してしまいます。

神野 そうですね。da Vinciが出てきたとき、これからは「神の手」は東京にいて、全国各地で機械が勝手に動いている世界が来るのかなと思った。現実には米国も含めてそんなことにはなっていないですけれど。ただ、スペシャルな医師は東京とか大阪だけにいる、とか、レントゲンの読影や病理診断などは現場にいる必要はなくて、転送装置だけあればいいという時代はもう近いでしょうね。

 今の専門医制度は、2年の臨床研修が終わったら、あたかも全員次に行かなきゃ行けないような話になっていますが、昔は専門医なんか取ってない医師は山ほどいた。それでもやっていけた。今は全員が専門医にいかなければという錯覚をしてしまう制度です。それは地域包括ケアから離れてしまう方向にありますよね。まだしばらくは専門医が欲しいという要望は多いと思いますけれど、次の10年を考えたら、専門医の需要は下がっていくのじゃないかなと思います。専門医は本当に限られた人が限られたところにいれば良い、という時代が来たら、望む望まないにかかわらずゼネラリストにならざるを得ない。

豊田 例えば米国などでは診療科の定員を厳格に決めていて、非常に間口が狭い反面、家庭医はその10倍、20倍といます。空間的にも数量的にもバランス良く配置するという発想です。日本でなぜこういう考え方を採用しないのか、と思っています。やらなければ絶対バランスが悪くなるのに、と思うのですが。

神野 バケツに水を入れていって、水があふれた段階でいろいろなところに医師が行き渡るのかもしれないけれど、バケツを大きくしたらなかなかあふれない。医師不足とか医師偏在と言われるけれど、医学部定員数を増やすだけではバケツが大きくなるだけだから、問題は解消しにくいのですよね。こういうことを言うから怒られるんですけれどね。

豊田 一方で、供給を管理するとなると、競争原理が働かなくなりませんか。競争することで進歩することがありますよね。切磋琢磨していくというか。

神野 もちろん切磋琢磨できる人数は必要です。でも、一生、切磋琢磨できるわけではないですよね。1人1人に適性がありますし。最初から芽を摘むわけではなくて、自ずと絞られているようになっていくのではないかなと思います。会社だって社長になれるのは1人しかいないわけだよね。

豊田 これから医師1人1人は自分の適性をじっくり評価して、それが生きる道を探していかなければならない。そうすると、医学部教育でもっといろいろなことを教えるようにしないといけないのかもしれませんね。

神野 この間怒ったのですけど、研修医の待機する部屋に顔を出したのね。そうしたらみんな寝転がりっぱなしで。理事長が来たんだから立てと(笑)。別にこちらが偉いとか言うつもりはないのだけれど、目上の人が来たら立って挨拶することが大事でしょう。一事が万事で、それができない人が患者さんやご家族の前でちゃんとコミュニケーションできるのか、ってことになる。

豊田 それは最近の傾向でしょうか、それとも昔から?

神野 昔からそうだったけれど、後で偉くなる人はやっぱり違ったよね。医学部の教授になる人だって選挙で選ばれるわけだから、態度が悪ければ誰も付いてこないですよね。

 まあこれは例え話だけれど、ケアが重要だ、医師もケアにかかわっていく必要がある、という時代が来たとき、そういうことって看護師や栄養士などの方が得意ですよね。高齢者とコミュニケーションをうまく取れる。医師は下手したらいらない、って言われてしまう。そんな可能性は十分ありうると思いますよ。

豊田 最近では人工知能が人間の仕事に取って代わるといった話もあります。10年後、20年後には医師の仕事は違ったものになる可能性があるのでしょうか。

神野 確かに新しい技術などが入ってきて、代わることはあると思います。なぜ医学部が難しくて国家試験が大変なのか、といえば、国民の目線で言えば、この人ならば包丁を持たせてもいい、毒薬を盛らせてもいい、という信任を受けることだからとも言えますね。だからこそ医師が行うのは、診断することじゃなく、判断、決断だと思うんです。こういう決断は人間じゃないとできない。だからこそ、昔の医学部生は哲学を語っていたし、カントだデカルトだ、って議論をしていたのだと思う。今はそういう時間が持てない、もしくは持たないから。でも、こうした医学ではない学びをしないと、国民のニーズに応えられなくなるというのは確実じゃないでしょうか。

《後編に続きます》





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