院内を歩いてもらうことだって“治療”です

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INTERVIEW2016-08-05
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プロフィール

NTT東日本関東病院 院長
亀山 周二

かめやま しゅうじ〇1981年東京大学医学部卒業、東大泌尿器科入局。病棟医長や外来医長を経験し、1999年にNTT東日本関東病院泌尿器科部長。2013年4月同院副院長、2014年7月より現職。


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 長らく東京大学の泌尿器科医として結石治療から腹腔鏡手術、果てはロボット支援手術の導入などを手掛けてきた後、NTT東日本関東病院院長に就任した亀山周二氏。院長就任直前まで診療現場で腕を振るっていた亀山氏だが、今は病院経営に腕を振るう毎日だ。亀山氏は医療の今後をどう見ているのだろうか。


豊田 先生は東大泌尿器科で病棟医長や外来医長などを経験なさった後、1999年にNTT東日本関東病院に移られてからも最先端の診療を提供できるよう尽力されていました。その後、2013年に副院長、2014年に院長に就任されています。これまでご施設でどんなことをなさってこられたのですか。

亀山 まずは地域との医療連携の担当を拝命し、地域医師会、特に品川区医師会との連携を深めてきました。2004年からの新臨床研修制度開始にあたり、研修医部会長として基幹型臨床研修病院としてのプログラム立案を行ったり、地域医療研修のためにNTT東日本伊豆病院、小児科研修のために大森日赤病院をそれぞれ協力型研修病院として体制を整えたりするなど、様々なことを担当し、経験を積む機会をいただきました。

 個人的には経営職を目指してきたわけではなく、外科医の1人として「職人」であることを目指していたので、病院長として経営に携わるのは正直難しさを感じていますけれど(笑)。

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豊田 先生は日本の医療の未来についてどうお考えになっていますか。

亀山 一般的によく指摘されるように、少子超高齢化が叫ばれ、それに見合った医療を、と言われるようになってきています。それで、医療介護総合確保推進法といった医療と介護を一体化して進めるような考え方が打ち出されていますね。そこでは病院の役割をもう少し明確にしなさいと言われていますが、大病院といいますか急性期病院の立場で考えると、すみ分けがしやすいので非常にいいですね。高度な医療技術を提供するという点が急性期病院の立ち位置なので、高度な医療機器に投資するなど、目標とその手段が分かりやすい。

 一方で、慢性期医療や介護については、そもそも人手がかかるものですし、相対的に利益を出しづらい領域なので、今後どうしていくべきか、よく考えていかなければならない。

 しかも、もう少し先を考えたとき、急性期病院だって、施設の戦略を練るのが難しくなっていきます。

 近年、若い労働人口が減少していますよね。また、日本の経済力も国際的に見ると低下傾向にあります。今の日本人の平均年齢は46歳ぐらいですが、米国はもっと若くて38歳。ベトナムなんかでは28歳らしいですね。この点から考えても、日本は国としての伸びしろが減っているのではないでしょうか。

 そんな状況下で、日本の医療には、結局のところ税金が多く投入されています。それはたぶんいびつな姿です。国民皆保険を維持するのであれば、保険料の負担、あるいは消費税を上げていかざるを得ない。医療費が高額化している状況もありますから。しかし、社会の伸びしろが減っていることと高額化は逆の動きです。「我々は技術の進歩を享受できるのか」という懸念が広がるのも無理ありません。

豊田 非常に効果が高いのに高額な医薬品が出てきていますし、とても低侵襲に外科治療ができるけれどその装置は非常に高額だったりします。

亀山 そう。とても有効なものが次々と登場していますが、それを無制限に使っていいのだろうか。その点は今後、ますます問題になってくのではないかなと思います。

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豊田 今までの医療システムは、国が強い、成長していることが前提でできあがっているということなのでしょうか。

亀山 そうです。高度成長期までは、医療界だけでなく全ての業種において物事がうまく循環していた時代でしたが、その後、停滞に突入したのだけれど、対応しきれなかったというところがあるのかもしれない。

 今後、2025年問題、つまり戦後のベビーブーマーが75歳を超えていきます。その10年後には亡くなる方がたくさん出てくる。多死の時代がくると言われています。社会が変われば、また医療も変わらなければいけません。今、医師不足が言われていますが、20年後には医師が過剰になる時代が来ると言われています。ですから、先のことを今から考え始めていないといけない。

 我々の施設では急性期の医療を担っていますが、若者の人口が減って高齢者が増えていくとき、何が起こるか。高齢者は、身体機能はもちろん、認知機能を含めて全般的に低下していく。すると、1つの疾患に罹患している患者ではなく、糖尿病もある、心臓も悪い、足関節も悪い、というように、併存症をたくさん抱えている患者になるわけです。すると、急性期病院として1疾患だけ診てそれで終わり、では十分ではなくなるでしょう。

 当然、入院してきた高齢者に対するケアが非常に大切になります。この患者はどのくらい動けるのか、転倒リスクが高いのか低いのか、栄養状態は? とたくさんのことを評価していかければならない。しかし、急性期病院には何日も入院していられるわけではない。若い方ならすぐ社会復帰できますが、高齢者はすぐに在宅復帰できない方がいて、今後、そういう方がますます増えていくでしょう。都内では独居老人が、今は70歳以上では30%程度といわれていますが、今後は50%以上を超えていくと言われています。そんな独居老人をすぐに自宅に帰せるのかどうか分からない。

 そうして考えていくと、急性期病院だって、1つの疾患だけを診て、あるいは手術して、「はい、治りました。お帰りください」って言えなくなる。1つの疾患だけ治しても他とのバランスが崩れていて、まだ自立できていなくて、すぐに帰せないわけですからね。
 
 今でもそうだけれど、ケアという意味で看護師さんの専門性に頼るところが多いし、薬剤師さんや栄養士さん、セラピストの皆さんが病棟に入ってケアにあたる必要性がますます高まっていきます。退院時にはソーシャルワーカーさんや地域のケアマネジャーさんに協力をいただかなければならない。昔に比べると、たくさんのことをたくさんの職種でみていかければいけない時代になっていくでしょう。そのためにも情報技術(ICT)を活用して患者情報を共有できる体制が有効になっていくし、必須になっていくでしょうね。


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豊田 臨床医だった頃、90歳の脳梗塞患者の緊急オペなどを経験しましたが、血腫そのものを除去することはできるんです。昔ならば患者に介入して、その結果、元気になって退院していくのを治療と呼んでいましたが、近年、血腫は除去できたけれども、その結果として患者さんは元気になりましたか?と聞かれたら答えに窮します。高齢者が増え、併存症も増えていく中、1つの疾患だけを治療しても身体機能が完全に回復するわけではないからです。極端な言い方ですが、昔は「なぜその治療をするのですか?」と聞かれたら、「患者さんを直して元気に帰ってもらうためです」と胸を張って答えられたのですが、今はなんと答えたらよいのか、複雑な気持ちになります。昔の方が医療技術は未熟だったはずなのにです。

亀山 そうなのかもしれませんね。医療に求められる役割が変わっていくのかもしれません。治癒が得られない状況がたくさんあるわけだからね。

 結局のところ、我々は何を目標にすべきか。ひょっとしたら医師としての診療の目標だけじゃなくて、人間としての目標と設定しなければいけない。単に長生きしたいというだけでなく、終末期を考えること、死を迎えるまでどう生きるか、自分の死ぬときのイメージをどう具体的に持つか、ということが大切になる気がします。そういった意味で豊田さんが一般人向けに医療の情報提供をしていることは重要なことですよね。

豊田 一般人ももっと医療のこと、病気のこと、あるいは死のことまでもっと具体的に知るべきなんじゃないかと思っています。過度な医療訴訟なんかも知らないことが原因の1つなんだろうなと思っています。

亀山 高齢者が入院中に転倒した、となると、医療事故、医療訴訟につながりかねません。こちらもできるだけ起こらないように対策しますが、例えば家族も「転びやすくなるほど身体機能が落ちている」ってことをよく認識してほしいな、といった気持ちもありますよね。

豊田 転倒した、骨折した、とよく当直のときに呼ばれました。

亀山 では、転倒しないように歩かせなければいいのか、縛り付ければいいのかというと、それではさらに身体機能が落ちてしまいますし、すべきではありません。院内を歩いていただくことだって大切な「治療」です。何が「医療」であるか、何が患者のためになるか、ってことを医療者側も患者さんや一般人側も考えを変えていく時代になってきたのかもしれません。

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豊田 最後に、若い医療者にメッセージをいただけませんか。

亀山 これは私の経験なんですけれど、院長は人事が最大の仕事と言われていますが、診療科ごとに内包している特殊な事情、連携している大学病院側の事情など、簡単にはいきません。都内にたくさん大学病院があると言っても、欲しい人材の確保はやっぱり難しいのです。でも、去年はとても素晴らしい先生をお二人も獲得できました。そこで実感したのは、病院において、力の空白域、つまり欠けているところに素晴らしい人材を得ると、組織が想像以上に伸びていくということです。この経験は大変に得がたいものでした。

 この件は、経験を持ったベテランの先生の話ですが、経験は少なくても若くて、快活で、勢いのある先生も貴重な人材です。組織の活性化には人材が不可欠なのです。

 今の若い先生は専門医の資格を早く取りたいとか、早く技術を習得したいという気持ちが昔より強いなと感じます。昔に比べて資格を取得するための要件が明確化されているから、余計に集中していくのだろうと思います。

 一方で、他のことをあまりやりたがらない気質があるんじゃないかなと思わせることがあります。高齢者ケアのような手間がかかること、時間外とか当直のことなどです。当直してもインセンティブがないからかもしれません。実際には当直したからといって、次の日に休みを取ることが難しいケースも多いですからね。負担になっているんだろうとは思います。

 しかし、これまで述べてきたように、これからは自分の専門性を追求するだけで済むような状況ではなくなります。患者が急性期病院を出た後にどこに戻っていくのか、どこに移っていくのか。そういったことに全く関与しなくてもいいという時代ではありません。特に我々のような施設は大学病院ではありませんからね。当施設に著名な先生がいらっしゃいますが、ただ高度な医療を提供していればいい、なんて考えていません。地域との連携を深めていくためにさまざまなことをなさっています。視線を外に向けてくださっています。病院は社会的な役割を背負っていることもよく知っておいてほしいと思います。

 もちろん高度な技術を持つことは大切です。一方で、時には厳しい決断をするとか、残念ながら重篤な機能障害が残ってしまっても向き合っていくとか、退院する患者のフォローができるとか。人間力というか、医師として鍛えるべき力があります。そういうことを明確に意識として持ってほしいと思っています。

豊田 どうやったら人間力を鍛えられるでしょうか。

亀山 やっぱり1つ1つのことを面倒くさがらずにやり抜いていくことなんじゃないでしょうか。患者さんや家族が求めることに対して全部やれるか、提供できるかどうか分からない状況であってもともかく対応することです。

豊田 なるほど。ベテランでもできていない先生もいらっしゃいますけどね。

亀山 でも目指すべきですよ。

豊田 偏屈だとか、人間としては終わっているけれど、医師としてはすごい!ってことはもうあり得ないのでしょうね。

亀山 やはり人間力ですよ。今に始まったことでもないですけどね。


【インタビューを終えて】「職人を目指していた医師が病院長として経営に携わるのは難しい」と語った亀山先生ですが、日本の医療全体を俯瞰している視点や人材に対する考え方などを拝聴して、どうしてどうして経営者目線をお持ちの先生と強く感じました。専門医の資格が明確化されてきたからこそ、資格を取得することを最優先してしまい、医師としての人間力が疎かになっているのではないか、というのはとても強烈な指摘でした。(豊田)





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