日本赤十字医療センター院長:幕内雅敏氏インタビュー「外科医なら基礎じゃなくて手術で論文を書け!」

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INTERVIEW2016-08-25
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プロフィール

日本赤十字医療センター 院長
幕内 雅敏

まくうち まさとし〇1973年東京大学医学部卒業、東京大学医学部第二外科にて研修、74年東京都立大塚病院外科医員、75年東京大学医学部第二外科医員、79年国立がんセンター病院外来部外科医員、88年国立がんセンター病院外来部外科医長、東京大学医科学研究所講師を併任。89年国立がんセンター病院手術部長を経て、同年10月から信州大学第一外科教授併任。90年には信州大学第一外科教授専任となり、94年から東京大学医学部第二外科教授併任。同年10月に東京大学医学部第二外科教授専任となる。97年から東京大学大学院医学系研究科肝胆膵外科人工臓器・移植外科教授、2003年同大医学部附属病院臓器移植医療部部長兼任、05年同大医学部附属病院手術部部長兼任。07年から現職。東京大学名誉教授。


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 四六時中、手術のことを考えてきたと語る肝臓手術の第一人者の幕内氏。院長になって10年目になるが、未だに現役で週3回手術も行っている。幕内氏は医療の未来をどう語るのだろうか。


豊田 本日は、ぜひとも先生に医療の今後を語っていただきたいと思っています。

幕内 貴方はミシガンの小児病院で働いていたことがあるんだね。ミシガン湖のどのあたり? 

豊田 デトロイトです。

幕内 あのあたりにローストビーフがうまいと評判の病院があるんだよ。「何だ、この病院は医療が売りじゃないのか?」って話をしたことがあったんだけどね。確かに美味しかった。

豊田 病院で食べられるんですか?

幕内 そう。食べ放題だよ。農家と契約していてね。サシの入った肉を食べさせるんだよ。でも食べる量が問題でね。少し食べるのならば身体にも良いのにね。オーストラリアなんかステーキの牛肉“一切れ"が500gなんだよ。まあそれはともかく、始めましょう。

豊田 はい。医療の今後のお話です。

幕内 今は薬だろうね、薬。それから医療器具。最近はあまりにも高くなっているよね。だから、病院の外来収入はとても上がっている。でも、薬代で上がっていて、治療費では上がっていない。そして利益率も上がっていない。高額な薬剤がとても増えてきていて、本当に必要とする患者だけに使うならともかく、「売れればいい」という思いも見え隠れしているよね。

豊田 先生は、「ザ・外科医」一筋でこられて、危惧するところはありますか?

幕内 今年も少し上がってはいるけれど、技術的なところの診療報酬がほとんど上がっていないんだよね。

豊田 確かに先生がオペされても、5年目の専門医を取得したばかりの先生の手術を受けても医療費は同じです。

幕内 それはちょっと異なる問題だけど、少し矛盾を感じるよね。手技料というか技術料というかはともかく、そういう観点がないんだよ。例えば料理の世界でも、腕が立つ料理人、有名な料理人には高い値段が付いている。値段相応だと思ったらその値段を払うよね。相応じゃなければ客が離れていくけど。手術は誰がやっても同じ、という話ではない。世の中は価格に見合った価値が得られれば払うというのが当たり前だよ。

 それに鏡視下手術に使う器具や器械も全部使い捨て。地球環境に悪いよね。昔、若い頃にアメリカに行って、帰りにハワイに寄ったんだ。オヤジの知り合いの先生がハワイにいたから病院を見学に行ったんだけれども、そうしたら裏庭に麻酔に使う蛇腹がうずたかく積んであったんだ。あれ、全部使い捨てだからね。カネのある国は違うなって思ったけれど。お金がかかるわ、ゴミは増えるわ、って言うのが現状だよ。

 病院についても、病床数は東京23区は余ってるんじゃないかな。多すぎると思いますよ。ある程度、整理された方がいいんじゃないかな?

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豊田 こんなことを申し上げるのは恐縮なのですが、先生は超一流の臨床医をされてきて、病院経営を学ぶことはなかったと思うのですが。

幕内 確かに病院経営なんて考えたことなかったね。まあ僕には病院の経営に対して「こうでなくっちゃ」って思いはないんだけどさ。ただ、院長を拝命するときね、本社の局長さんの話を聞いたんだけれど、要は「独立採算制で、赤字はいかん」ということを繰り返し言われた。

 病院って、企業に比べて多少コスト意識が低いところがあるからね。いい加減な計算が出てくることだってある。自分の作った書類に責任を持つのは当たり前だよね。適当に書かれた書類をもとに経営しろって言われたってできない。だから怒ったことがある。「誰がこの書類を作ったんだ!」って。それからは、僕の病院では文責を書くように徹底したんだ。薬だって10銭まで交渉するよ。年間で見たら全体ではすごい金額になるからね。

豊田 そこまでなさっているんですね。なかなかそこまでできる院長はいないんじゃないかなと思うのですが。

幕内 それは努力していないからだよ。自分も努力するし、事務方もしっかり努力してもらわないと組織は良くならないよ。

豊田 教授や診療部長という立場と院長という立場で何か差みたいなものはお感じになりますか。

幕内 やっぱり会計で黒が出るとうれしいよね。大学ではなかった感覚だね!

 台湾では病院のベッド数が多い方が、保険点数が高いんだそうだ。何んでかって、大きい病院ほど厳しい手術や病状の重い患者さんを治療するわけだよね。そうすると、他でもできる手術は当然他でも行うわけで、厳しい手術や重症の患者さんが大きい病院に回ってくるんだ。集約化という意味で効率的だし、厳しいからこそ診療報酬も高くなって当然なわけだよね。

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豊田 薬剤だったら患者に与える効果の大きさは基本的に同じで、受ける側の違いによって効果の大きさが左右されますが、手術手技は提供する側の技量によっても効果の大きさに違いが出ます。でも、全国一律同じ診療報酬ですね。

幕内 一律はおかしいなと思うことがあるよね。あとは、ラパロ(腹腔鏡手術)。あれって利点は整容性だけでしょう? なのになんで開腹よりも高くなってるのか理解できない。どう計算したって入院費とかディスポ製品とか色々と足し併せると結局ラパロの方が高いのです。日本の医療保険制度では、同じことをやる手術であれば、どうやってもいいけど、手術費は同じだった。それなのに、同じ胆嚢を摘出するのに、ラパロの方が高い点数になっている。報酬もだけれど、安全性もだよ。安全性はラパロの方が低い。肝切除だって、僕ら論文でも出したけれど、1050例の肝切除で死亡例は無いと報告しましたよ。アウトカムが一緒だったら料金も一緒じゃないとおかしいよね。しかも、ラパロ肝切除では人がたくさん死んでいるのに、手術料は高いなんて許せませんよ!

 今は制度に自由度がなさ過ぎるんじゃないかな。より高い整容性を望むなら、多くのお金を個人が支払うっていう制度があってもいいんじゃないかなと思いますよ。ラパロのディスポ製品代は個人持ちにすべきだよ!

豊田 最近、C型肝炎で非常に効果の高い薬が出てきました。これから肝発癌は減っていくと思うのですが、外科医である先生はどうお感じになっているのか伺いたくて。

幕内 最近のC型肝炎治療薬は、抗癌剤と違ってC型肝炎がきちんと治るからね。それで発癌率がどんどん下がっていくのなら、それはそれで保険で認めてよいと思いますよ。それだけの効果はあるのだから。

 一方で肝癌はB型肝炎とC型肝炎に起因する肝癌に比べて、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)やアルコール性の肝発癌の割合が高くなってきた。さらに、他の癌からの肝転移も少なくない。肝転移を切除してやればそれだけ延命効果はあるし、治る例もあるからね。外科医の役割はまだまだ重要です。


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豊田 まだまだ外科医は必要だと言うことですね。先生は国立がんセンターで手術を非常に多くなさって、43歳には信州大学の教授になられました。しかもいわゆる「一本釣り」で、教授選もせず、ともかく来てほしいと言われたと聞きます。それだけの実績をお持ちだったからこそ求められる医師だったということだと思いますが、どうやったら高みに登っていけるのでしょうか。若い医師にアドバイスをいただきたいと思います。

幕内 やはり常に上を目指して日々研究や努力をすることが大切です。我々は解剖に基づく肝切除と言って、肝臓の血管の走行に基づいて系統的に切除すると治療成績が上がることを示してきました。肝癌の肝内転移に対応できるのは肝切除だけです。常に成績を上げていくためにいろいろと考えてきたと自負していますよ。

豊田 先生方は常に努力をされてきましたが、必ずしもそのレベルに到達していない医療施設もありますよね。

幕内 それはそうですね。しかし、今の時代は患者さんもインターネットとかで調べてきて、良いドクターを選ぶのが当たり前の時代になってきている。ある程度の腕前になると、さらに患者が集まるという循環になっているかもしれないね。

 忘れてほしくないのは、若い医者が手術場で前立ちや第二助手をしながら、どれだけ技術を吸収し、どれだけ物を考えているかが問題なんだ。そして、よく考える先生が色々なポジションを任されることで、結果も付いてくるということだと思う。僕は新人に左肝切除をさせたりしたよね。

豊田 何かあってもリカバーしてやるからやってみろ、ってことですね。

幕内 そう言うことだね!

 自分でやってみる。一生懸命やってみて、色々と問題点を考える。そうすることで新しい発想が浮かぶんだよ。僕が大学を卒業した頃、先輩の先生は「もうこれからは、手術術式では論文は書けないね」なんて言ってたけど、でもそれは違う。常に考え続ける。だから新しい発想が浮かぶ。そうしたら論文が書ける。僕は手術をして、その手術の絵で成り立っているような論文をいっぱい書いたよ。今の若い先生に同じことができるかな? ぜひ、頑張ってほしいけれど。

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豊田 世界中で手術をなさってきた先生からご覧になって、日本と海外で医療に違いを感じられましたか。

幕内 病院の施設とかシステムなどは、欧米は進んでいると思うね。マネジメントも欧米の方が進んでいるんじゃないかと。でも手術技術自体はそうではない。向こうは外科医がエコーなんて触らないし、やったことがない。外科を知らない技師が術中エコーをやってみたところで手術には役に立たないんだよね。日本にはそういう外科と放射線科の垣根がないし、むしろ外科医が超音波を発展させてきた。外科医は手術に役立つことであれば、自分で努力して何でもやる。だから43歳の時に、アメリカの超音波医学会から名誉会員の称号をもらえたんだよね。

 君は、外科はオーソリティーがいて、その下に兵隊がいるというイメージを持っているんじゃない?

豊田 はい(笑)。

幕内 そうだよね。じゃあ、いつまでも手術は自分でできないのか、というと、僕はがんセンターで色々なことをやって、43歳で信州大学の教授になった。そこで自分が信ずる手術を沢山やってきた。そして、論文も書いたし書かせた。新しい発想で新しいことも沢山やってきた。世界があっと驚くようなことをね。だから、アメリカ外科学会(ACS)の名誉会員にもなれた。術前処置としての門脈枝塞栓術の論文は750回も引用されている。外科の技術に関連する論文としては引用数が多い方でしょ!僕は今でも大学の時と同じように手術をしてるよ。今年に入って肝切除だけで63例の手術をしたね(編集部注:6月初めまでに)。

 外科の世界って、若いものに手術を教えるという文化だよね。だけど、教わった者がそれをくみ取って次の時にはできるようにと準備しているかというと、してない人が圧倒的に多いんだよね。手術の過程を覚えていないんだよ。次はどうしようか、ああしようか、と常に考えることが大事なんだけれど、そういうことをしていないし、実践もしないのはいかんよね。若い外科医に聞けば「準備をしていても手術が回って来ないから」と言い訳をする。しかし、できる人は手術中にボケーっとして手が動いていないなんて事がないし、手術記事なんか実に上手に書いてくれる。そう言う人は手術もどんどん上手になるし、困難な手術も任せられるし、教授になって就職していく。

豊田 10教わったら10しか学ばないという感じでしょうか。

幕内 ともかく手術のことをしょっちゅう考えてなければダメだよ。寝ても起きても手術のことを考えてろ!ってことだ。余計なことを考えてるんじゃない、って。

豊田 「余計なこと」は全く考えてはいけませんか(笑)。

幕内 まあちょっとだけならいいけどな。でも、ともかく常日頃から考えていなくちゃ。基礎に行って論文を書く人がいるけど、なんでそんなことをするの? 外科医だって手術や手術関連の論文が書けるんだぞ!って言いたいね。基礎に行って論文を書いちゃいかんとは言わないけれど、その評価は外科的論文の10分の1ぐらいのインパクトファクターで評価すべきだと思う。手術をすべきだし、外科医として書くべき論文はまだ沢山あると思う。

豊田 確かに、手術場に行きたくて仕方がない、って医師が今、外科医をやってますよね。

幕内 そうそう!そうでないとおかしいよ。食事するよりオペしてる方が楽しいってね。そうでないとおかしいんだけど、某大学の様に手術はメチャクチャ、手術記事も書いてないと言う事では教育施設として落第だよ!


【インタビューを終えて】肝臓外科のトップランナーとして世界中にその名を轟かす幕内先生。お会いする前は、手術のことしか興味のない「スーパー外科医」というイメージがあったのですが、実際にお話してみると診療報酬における技術料の考え方や、病院経営の話、教授選の話など、経験と知識に裏付けられたとても興味深いお話を伺うことができました。歯に衣着せぬ発言に圧倒されるばかりでしたが、とても刺激的なインタビューでした。(豊田)





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