田畑 今、医療制度はどんどん変わっていますよね。しかし医師は普段から制度変更を学ぶ時間がなかなか取れないので、医師会長として診療報酬がどう変わったとか、国がどのような方針か、などを把握しつつ、さらに先を見越して「こんな風に変わっていくんじゃないかと思います」なんてことを伝えられるようにしています。そのためにもしっかりと情報収集して、先を見通せるようにいろいろと考えています。それをしないと「勉強が足らない」って会員から怒られますから。

豊田 私はこの先、医療が維持できるのか不安といいますか、危機感を持っていて、医療現場以外のところから医療を支えていきたいと医療現場を離れたのですが、現場にいらっしゃる先生は医療のこの先をどう見ておられますか。

田畑 日本は国の借金が膨大な額になって、そのために社会保障の削減を進めているわけですよね。しかし、医療も介護も提供し続けなければいけないわけで、考えて考えて、維持していく必要があると思っています。そのためには、ある程度お金に余裕がある人には相応に負担していただく仕組みが必要ではないかと個人的には思っています。その代わりにサービスも少し良いものにするのもいいのではないでしょうか。

豊田 安全性とゴールは一緒だけれど、サービスが少し違うという感じでしょうか。

田畑 そうですね。国民皆保険そのものは維持すべきだと思います。

豊田 今の制度では、医療機関側がどれだけ一生懸命頑張っても、収入は同じです。頑張ってぎりぎり黒字を確保できた、という病院も少なくありません。国民皆保険はいい医療を届けるための手段であって、皆保険を維持することが目的になってはいけないと、個人的に感じているのですが。

田畑 皆保険は良い制度ですよ。維持するために方法を検討すればいいのです。

豊田 外食で月何万円と使うことも床屋に行って何千円と払うことも普通にしているわけですから、医療にもう少し支払ってもいいですよね。

田畑 もう少し金額の設定を変えることは必要でしょうね。他にも後発医薬品の割合を高めるとか、方法はまだありますよ。削れるところは削ればいいのですから。

豊田 今、若手の医師は、医師を続けるべきなのか、続けていて明るい未来があるのか、という悩みを持っているように感じています。破綻することが目に見えている制度の中で働いていると違和感を覚えるのかもしれません。その結果として医学部を出たのに医師にならないドクターも少なくないような気がします。

田畑 これだけは理解しておいてほしいのですが、日本の医療は皆保険制度をはじめとする様々な制度に守られているのだと思います。例えば、公共事業なんかは有無を言わさず予算を減らされたり、打ち切られたりするわけです。でも医療はそんなことはない。私の留学時代の先輩の奥様がニューヨークで出産したのですが、お産の1週間前に1カ月の保険に入って、お産をしたら1日で退院させられたそうです。それは制度がないからです。制度は無くしてしまったら同じものを得るのは難しい。維持していくことが大切です。そのために皆が知恵を絞っていく必要があります。そして医師は今、苦しいこともあるかもしれませんが、頑張ってほしい。医療で頑張ってほしいと思います。

 今の若手ドクターはとてもよく勉強していますよ。いろいろなことをよく知っている。昔の私たちよりもずっと力があります。だからそのまま学び続け、日本で良い治療を提供してほしい。それが一番幸せだと思います。

【インタビューを終えて】医療は守られている、とおっしゃる田畑先生。ただその裏側には、「だからこのままでいい」という考えではなく、「だから勇気をもって変化し続けなければいけない」というメッセージがありました。今の良い日本の医療を、どうしたら今後も続けられる仕組みにしていくのか、多くの医療従事者が当事者意識を持って考えていかなければいけないと感じました。(豊田)