妊婦の時短勤務も「ノーワーク・ノーペイ」の原則で
 妊産婦に対する配慮は、男女雇用機会均等法で規定されています。通院時間確保の配慮や通勤ラッシュが母体に悪影響を与えると医師が判断した場合の時差通勤、時短勤務の配慮をうたったものですが、これらには全て「ノーワーク・ノーペイ」の原則が貫かれています。

 当然のことではありますが、妊婦だからといって自分勝手な勤務を許す法律ではありません。産科医の意見があれば、その意見に従って配慮をしなければならないという規定にすぎないのです。今回、このクリニックでは、最初の対応を間違えてしまったばかりに、Aさん本人に勘違いをさせてしまっただけではなく、職場の雰囲気まで悪化させてしまいました。

図1 産科医の指導内容を記す「母性健康管理指導事項連絡カード」の書式(一部) ※クリックすると拡大表示します。

 このクリニックには、就業規則が整備されており、母性健康管理措置の適用が「無給」として定められていました。忙しく過ぎる日々の中、規則の確認を怠り満額支給を続けてしまったがために、面倒な事態を招いてしまったのです。

 結局、院長がAさん本人と話し合い、産科医の指導内容を文書で提出してもらうことにしました(図1)。そして、産前の休業に入るまでは産科医の指導内容に従って勤務時間を定めること、短くなった勤務時間分の給与はきちんと減額することを納得のいくように説明したのです。このような取り扱いになると決まった次の日から、Aさんは定められた時間通りに勤務するようになったそうです。

今回の教訓

 このところ、マタハラ(マタニティーハラスメント)という言葉が取り上げられる機会が多くなりました。妊娠前と同じように勤務することができるかどうかは、個人差が大きいものです。突発的な遅刻や早退、欠勤が発生すると、少人数で運営している病医院では業務に支障が出る場合もあるでしょうが、妊婦に対して心無い言葉を投げかけたり、妊娠を理由に退職を迫ったりしてはなりません。かといって、妊婦本人の希望を全て聞いてあげなければマタハラ、というものでは決してないのです。

 院長や事務長が毅然とした態度で適切な管理に努めることが、病医院の健全な経営につながります。管理の甘さから生じる遅刻、早退、欠勤の常習化は未然に防ぎ、働きやすい環境づくりを心掛けていただければと思います。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
中宮伸二郎(社会保険労務士法人ユアサイド代表社員)●なかみや しんじろう氏。立教大法学部卒業後、社会保険労務士事務所勤務を経て2007年に社会保険労務士法人ユアサイドを設立。非正規雇用問題を得意とし、派遣元責任者講習の講師を務める。