その他の問題として、職員間で、旅行に行くこと自体に対する温度差もあった。積極的に行きたいと思っていたのは、姑と同居していて羽を伸ばしたいスタッフ。逆に、子どもが小さく、面倒を見てくれる身内が近くにいない職員は消極的だった。勤務以外の時間まで顔を合わせたくないという意見もちらほら。
翌年には、「職員旅行は行かなくてよいので、積み立てたお金を返してほしい」との申し出があったので、返還することに。さらに、前借りして旅行に参加したA子が、返済終了前に退職することが決まり、退職時にまとめて返金してもらうなど、いろいろと後味の悪い結果となってしまった。以来、当院では職員旅行を一度も開催していない。
勤労意欲を高めることを期待して職員旅行を計画したものの、それほど単純なものではないことが痛いほど分かった。表向きは賛成していても、「仕事以外の時間に同僚や院長と一緒にいたくない」「職員旅行にまでお金を出したくない」と考えるスタッフがいないかどうか、よく確認しておくことが欠かせない。
また、こうしたイベントの企画に当たっては、職員の家庭環境や人間関係にも目を配っておくことが不可欠だろう。前に述べたように、姑と同居している「嫁」の立場のスタッフたちは、「医院がお金を出してくれるし、大手を振って旅行に行けるからラッキー!」と積極的だったが、家庭での立場が変われば旅行へのスタンスも変わってくる。人間関係については、スタッフがグループを作って仲たがいしているような状態では、開催しない方が得策かもしれない。
それにしても、A子と反りが合わないスタッフがいるというのは、なかなか気づかなかった。この手の問題は、ささいなことのように見えて、職場の雰囲気などに大きな影響を与えかねないので注意しないといけない。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカルOnlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業17年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。