新規開業時に前の職場の同僚を雇用すると、「自分が院長に一番近い」という意識から、他の職員を見下したりしてトラブルが発生しがちだ。そのため、新しい職員を指導してもらう目的で、期間限定で雇用するというのは1つのやり方となる。期間限定としないのであれば、リーダーとしての資質を見極め、問題なしと判断するまでは、ライバルと見なされがちな常勤職員を雇用しない方がよい。常勤職員同士の“主導権争い”が生じる懸念があるからだ。
今回のケースでは賞与の支給を巡るトラブルも発生したが、待遇については口約束で済ませず、雇用条件を確認できるようにするために雇用契約書を作成しておく必要がある。退職金支払いの際に、前職の勤務年数は通算しないルールとするのであれば、そのことも明示しなくてはいけない。
また、外部ブレーンを活用してサポートやアドバイスを求める場合、会計・税務に関しては顧問会計事務所、人事に関しては社会保険労務士が適任である。迅速に対応してくれるかどうか、説明が分かりやすいかといった点が、ブレーンを選ぶ際のポイントになる。人事に関しては、実際に診療所の職員トラブルに直面し、それを解決した実績があるかどうかを重視したい。
リーダー選任が難しい場合の対処法は?
今回のポイントとして、リーダーの指名の問題も挙げておきたい。縁故採用したスタッフを無条件にリーダーに指名したり、スタッフの推薦により選ぶと、失敗するリスクが高くなる。リーダーとなるべき資質を持った職員を院長自らが見極め、指名することが不可欠だ。
リーダーには、待合室での患者の動向に気を配り、患者からのクレームに対応し、診療部門への橋渡しを行う役割が求められる。問題が生じ、受付だけで対応できない場合は速やかに院長や事務長に指示を仰ぐ必要があり、自分で抱え込みすぎない人を選ぶこともポイントになる。
受付がパート職員ばかりの診療所では、そもそもリーダーを指名しにくい部分がある。午前診と午後診で人が入れ替わったりして、業務の進め方やクレーム対応などの責任の所在が明らかにならず、戸惑ってしまうケースも見受けられる。
そうした場合には、午前診と午後診それぞれ担当を決めて、ミスや患者からのクレームの内容、業務をスムーズに行うための提案などを記した日報を提出してもらうようにする。院長は診療中、大きなトラブルが起きない限り、受付で何が起きているかを把握できないので、日報を通して受付を指導していくことが欠かせない。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
二上吉男(株式会社ずのお代表取締役)●ふたがみ よしお氏。1978年慶應大法学部卒業。上田公認会計士事務所勤務を経て1991年に(株)ずのお(大阪市中央区)開設。診療所の開業・運営コンサルティングを手掛け、これまで350件以上の診療所開業を支援してきた。