今度は「労働時間が短すぎる」
その後、Aさんと再び面談し、勤務について再確認。Aさんが「午後6時半以降は仕事ができない時があります。土曜は基本的に月1回、他の人が出られない時に出勤します」と言うので、筆者は「採用時の話と違いますね。勤務について再検討します」と答えた。
その上で、院長と話し合い、パート職員をもう1人雇うことを決めた。Aさんの希望通りの勤務時間だと、とても業務が回らないため、パートを増員することにしたわけだ。
ただし、Aさんが「できない」という部分(平日夕方と月1回の土曜勤務など)のみを新たなパートに担ってもらうことは難しい。そもそも、そんな半端な時間帯のみの勤務を希望する人などいないからだ。そこで、Aさんの勤務時間を少し減らした上で、パート2人で業務をシェアしてもらうことを提案した。
そうしたところ、Aさんから今度は「勤務時間が短くなりすぎる」との不満の声が出た。筆者が、「最初に『できる』と話していた時間帯の勤務が難しいとなると、致し方ないんですよ。Aさんが働けない分だけを他のパートで補うことは難しいのが現実です」と伝えると、「少し考えてみます」と答えて帰宅した。
1週間後、本人から退職願が提出された。院長はこれを受理し、退職に至った。
診療所にとって、常勤者を補うパートの役割は大きいが、勤務時間などの条件面で院長が望むような働き方をしてくれる人を採用するのは容易ではない。面接時の勤務形態や労働時間の確認は、勤務トラブルを防ぐための重要事項と位置付けて対処することが不可欠だ。具体的には、(1)面接時に雇用条件の確認事項を記載した記入表を作成し、自分でチェックしてもらう、(2)勤務状況などによっては、例外的に試用期間が延びるケースがあることを就業規則に明記し、口頭でも伝える(延長期間は長く設定しない)、(3)職務経歴が2、3年未満で転職回数の多い人の採用は特に慎重に判断する——といった対応を考えておきたい。
人材採用では人柄や能力が重要であり、どうしてもそちらにばかり目が行きがちだが、勤務形態も大切な要素となる。採用後の勤務形態、労働時間を巡るトラブルは意外に多い。長く働いてもらうため、採用時に細心の注意を払うことが欠かせない。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。