厳しい姿勢で臨んだことが奏効
 翌日、Cさんから話が伝わっているだろうなと思いつつ、Aさん、Bさんと面談をした。そうしたところ、「なかなか覚えが悪い」「教える方も大変」「話しても返事をしないことがある」と、むしろ自分たちが被害者であるというような口ぶりだ。

 筆者は、「新人だし、数カ月では慣れないので、ミスや行き違いがあるのは当たり前。指導する方も大変だと思います。しかし、4人ものスタッフが次々に辞めたいと言ってくるのは、何か教え方や指導方法に問題があると考えざるを得ない」とはっきり伝えた上で、「前回辞めた2人から、いじめに近いことがあったと確認しています。実際のところはどうなんですか?」と尋ねた。

 Aさん、Bさんは黙ってしまい、認めようとも反論しようともしなかった。認めれば退職勧奨されても拒否できないと思ったのかもしれない。ここで筆者は、「仕事を教えるのは大変だけど、育てなければあなたたち自身にも負担がかかるでしょう。お二人とも、初めはミスをしたり業務処理に時間がかかったはずですよ」と諭すように話した。そして、「今後このような話が出ないようにしてくださいね。もし繰り返されるようであれば、このような注意だけでは終わらないですよ」と警告して終わった。

 同時に、新人2人にもAさんとBさんに指導した旨を伝えた。彼女たちは、「それなら退職せずに頑張ります」と翻意し、こちらもひとまず安心した。

 AさんとBさんは、筆者との面談により「下手をすると辞めさせられるかもしれない」と思ったのか、その後態度が明らかに変わってきたという。後日、新人にヒアリングをしたところ、厳しすぎる叱責がなくなり、質問すれば教えてもらえるようになっていることが分かった。

今回の教訓

 院長が、何も問題なく職場がうまく回っていると思っていても、いつの間にかいろんなトラブルやいじめが発生していることは往々にしてある。表面に出てきたころには、既に手遅れになっていることが多い。

 このような状況は、勤務歴の長い職員が多いケースや、特定のベテラン職員が仕切っているケース、それに職員の入れ替え時に発生しやすい。スタッフを信頼することは大切であるが、信頼しすぎることがトラブルの原因にもなることを忘れてはならないだろう。

 日ごろから職員を観察し、トラブルの芽を摘むことが一番の方法であるが、診療で忙しい院長が注意深く観察するのは難しいことも多い。特定の職員に権限が集中しないようにしたり、「常に見られている」という感覚を植え付ける工夫をすることが必要になる。

 具体的には、次のような対応を考えることが望ましい。
(1)引き継ぎ用の業務マニュアルの作成(特定の職員へのノウハウ集中を回避)
(2)定期的な職員全員の個人面談の実施
(3)他のスタッフのトラブルなどを報告するよう、採用時に指導
(4)採用後、試用期間中でのフォロー面談の実施
(5)業務チェックシートの作成とスタッフの能力把握
(6)業務上のヒヤリハット(ミス)記載ノートの作成
(7)公平な評価
(8)いじめと判断したときの即座の対応と断固たる姿勢
(9)退職する職員の面談(院内の問題点の確認)

 1つのチームとしてお互いの理解がなければ、医療ミスを生むことにもなりかねない。人が集まれば常に何かのトラブルが発生していると考えることが肝要だ。

 職員トラブルへの対応を間違えると、さらに重大なトラブルを招いたり、労働基準監督署などに駆け込まれる事態も起こり得る。職員の少ない診療所でも、使用する側が常に緊張感を持って日々対応し、職員にも一定の緊張感のもと、業務に就いてもらうような体制が必要である。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。