さらに有給も早退も、そのスタッフ2人に許可をもらわないと取れないという事態になってしまっていたことが判明。さすがに「表には出ない」と言われていた妻の立場であるが、夫に「どうもおかしい」と訴えるようになった。
夫は「女性ばかりの中で仕事する俺の気持ちにもなってみろ! 機嫌を損ねられたら診療がスムーズに行かなくなって、患者にも迷惑が掛かる」と聞く耳を持とうとしなかった。しかし信頼して育ててきた若いスタッフから「退職したい」と告げられ、さすがに夫もこれはいかんと思ったようだ。
その後、全員から退職届を出されることも覚悟して、「雇用者は院長である」と明示した上で、雇用関係をはっきりさせるように改革を進めた。
具体的には、「有給休暇の希望や物品の購入に関する要望があれば、間に人を介さず、当のスタッフが直接院長に申し出ること」という、小さいルールから徹底していった。また、私が事務長という肩書で医院に顔を出すようになり、院長である夫も院内では私を「事務長」と呼ぶようにした。勤務のシフト作成も、それまでスタッフのリーダーが行っていたものを、私が作成するようにした。
最終的には診療規模を縮小して、夫が診療、私が受付を行い、2人きりで診療することも覚悟した。結局、居心地が悪くなったのか、院長の元同僚スタッフやその友人は自ら辞めていった。
この失敗から、元同僚を採用する際に、雇用関係をきっちりさせておくことがいかに大切かを学んだ。それまでの「同僚」から「雇用者と被用者」の関係に変わることをはっきりと伝えて、他の職員と区別なく接することが不可欠だろう。
ただ、院長はどうしても縁故採用者には注意しにくくなるので、元同僚などの採用はお勧めできない。もちろん、たとえ元同僚であっても、きちんとわきまえて勤務してくれる人がいるのも事実だが、その見極めは容易ではない。私たちは経験不足からその見極めができず、初期の段階で厳しく接することもできなかった。今後、新たに開業してスタッフを前の勤務先から引き抜くことを考えている方は、十分注意していただければと思う。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカル Onlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業18年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。