その日、B子は休みを取っていたので、次の日に院長と社労士とで面談をした。すると、B子はとても意気消沈している様子で、反省の弁を述べた。「お酒を飲むと、気が大きくなってしまう」とのことで、新入職員を迎える会ではとても不適切な言動であり、再度このようなことが起こらないよう、公の席では飲酒を控えることなどを伝えてきた。

 院長は前もって社労士から言われていたようにB子を諭した。「不満があるのであれば、しかるべきときに、正々堂々と発言してください。そして、あなたは係長という役職者なのだから、ただ不満をぶつけるのではなく、その不満の原因を特定して、このようにしたら良くなると改善策まで提案してください。その上で、労働組合が必要なら組織しても構いません」。

 B子は「はい」と力なく返答した。院長は、直接反省の弁を聞けたことで、今回は何の処分もしないことにした。

今回の教訓

 職員同士の親睦を深めたり慰労する目的で、宴会を開くクリニックも多いだろう。だが酒席では、つい気が緩んで、Aクリニックのようなことが起きたり、職員同士の口喧嘩になったり、果てには暴力沙汰にまで発展することもある。

 職員有志で開いた会であれば、仕事との関連性が薄いので使用者の責任範囲外といえる場合が多いだろうが、職務との関連性が強い会での「非違行為」(法令や組織のルールなどに違反した行為)は、内容によっては懲戒処分(戒告、けん責など)の対象になり得る。

 就業規則に懲戒規程が設けられていることが前提であるが、職務との関連性が高い会において、誹謗中傷や暴力行為があった場合の懲戒は、処分の軽重はあるが、有効とされることが多いだろう。就業規則に懲戒事項として「職員や患者への暴行、脅迫その他の不法行為をして著しくクリニックの体面を汚したとき」「クリニックや職員に対する誹謗中傷等によって名誉信用を傷付け、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき」といった項目を盛り込んでおくことも検討したい。

 さらに、職員が普段から不満に思っていることを管理者に伝えたり、ガス抜きを図る場を設けておくことも大切だ。特に、Aクリニックのように組織が大きくなると、管理者と各スタッフのコミュニケーションがどうしても少なくなってしまいがち。個人面談の場を設けて要望や不満を聞き取ったり、定期的に食事会などを設定して意識的に各職員の本音を引き出すなど風通しを良くして、職場の不満の芽が小さいうちに摘み取っておくことが肝要だ。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
加藤深雪(特定社会保険労務士、株式会社第一経理)●かとう みゆき氏。日本女子大人間社会学部卒業後、2003年第一経理入社。企業や医療機関の人事労務コンサルティングを手掛け、中小企業大学校講師や保険医団体の顧問社会保険労務士も務める。