イラスト:ソリマチアキラ

 ボクたち中小チェーンはずっと大手チェーンと戦ってきた。地域の基幹病院が処方箋を院外に出すらしいと聞けば、できるだけ病院の門に近い土地を押さえるべく、大手に立ち向かった。

 しかし大手は、資本にモノを言わせて、1番いい立地を押さえる。ボクがやっとの思いで1番いい立地に薬局を建てても、そこと病院の間に薬局を作り、処方箋をかっさらっていく。立地では到底勝てない。

 そこで「薬剤師の力が立地を上回ることがあるに違いない」と思い、薬剤師の実力で選ばれる薬局にすべく、頑張ってきた。だって、日本薬剤師会学術大会の発表を聞いても、『日経DI』を読んでも、登場するのは地域密着型の中小チェーンの薬剤師が圧倒的に多い。「おっ!」と思うような活躍をしている大手チェーンの薬剤師はほとんどいない。大手企業の“歯車”となった薬剤師に、患者の心がつかめるわけがない─。そう思っていた、いや思おうとしていた。

 でも、ボクたちは大手チェーンの薬剤師を甘く見過ぎていたようだ。大手には、しっかり教育され、マニュアルに則ってそつなく患者対応する薬剤師がそろっている。一方、当社の薬剤師は、真面目で一生懸命だが、正直、いっぱい“そつ”がある。

 これは社員教育のせいなのか、そもそも採用時に勝負は決まっているのか……。前々回にも書いたが、採用活動においては、ボクたちは完敗だ。

 在宅なら立地に左右されないし、資本がなくても努力と工夫で処方箋を獲得できる! そう思って早くから在宅業務に取り組んできた。一日の長があると思っていたのも束の間、大手チェーンがひとたび「在宅を始める」と言った途端、ものすごい勢いで薬剤師を教育し始め、在宅対応可能な薬局を増やし、一気にうちの在宅患者数を抜き去った。

 年初から業界を騒がしている薬歴未記載問題にしても、大手チェーンは未記載を防ぐべく、システムにどーんと投資していると聞く。レセコンに薬剤名を入れると、患者に確認すべきこと、伝えるべき項目が表示されるので、漏れなく服薬指導ができ、その項目にチェックを入れれば薬歴が出来上がるそうだ。さらに、薬歴が完成しないと会計ができないらしい。一方、うちの薬剤師は、残業してヒーヒー言いながら薬歴と格闘している。

 かつて大手と当社の違いは資本だけだと思っていたが、今や薬剤師の質や社内のシステム、教育体制、何もかもが違う。何をやっても勝ち目がない。さらに大手は吸収合併(M&A)を繰り返し、いつの間にかメガチェーンになり、ますますパワーアップしている。この状況で、彼らに勝つ方法はあるのか。

 いや待てよ、ここで戦ってはいけないのではないか。彼らは幕末の黒船のようなもの。戦って勝てる相手ではないことは歴史が証明している。幕末に先進的な目を持った人たちは、西洋と戦うのではなく、西洋に学ぼうと考えた。あのとき西洋文化を取り入れなかったら、今の日本はない。

 先進的な目を持っているボクとしては、彼らに対抗するよりも、そのノウハウを学び、取り入れるべきは取り入れて、生き残る道を選びたい。黒船に乗り込んでいった、吉田松陰のごとく──。

 メガチェーンには、日本の分業を引っ張っていく責任があるはず。だったら、自らのノウハウを公開すべきじゃないか。そして中小チェーンは彼らのノウハウを学び、取り入れていく。そうしなかったら、日本の医薬分業は危うくなるのだから。山本君、森君、安部君!お城であぐらをかいていないで、一緒に黒船の内部を見にいこうではないか!(長作屋)

(「日経ドラッグインフォメーション」2015年6月号より転載)