イラスト:ソリマチアキラ

 「社長、これ以上は無理です!」

 先日、在宅担当リーダーの薬剤師Nが、ボクの顔を見るなり訴えてきた。薬剤師が足りないので、これ以上、担当する在宅患者数を増やすことは不可能であり、今、オファーが来ている有料老人ホームの依頼を断りたいというのだ。

 な、なんだってぇ〜っ!!根っからの営業マンのボクに言わせれば、断るなんて、あり得ない。機会損失も甚だしい。

 「断ってはダメだっ!」

 「お言葉ですが、社長!これ以上増やすと現状のサービスが提供できません。質を落として今の患者さんたちが離れていくようなことがあっては元も子もありません。二兎を追う者は一兎も得ず、です」

 「何を言っているんだ。二兎追う者は三兎も四兎も追え、だよ」

 「そ、そんな無茶な……」

 今春の調剤報酬改定では、特別養護老人ホーム入所者にも薬剤服用歴管理指導料が算定できるようになり、さらに在宅の点数を算定できるフィールドが広がった。外来の処方箋応需枚数は減っているし、外来の薬剤調製の点数は今後も下がりこそすれ、上がることはないだろう。つまり薬局にとって唯一、売り上げが増やせそうなのは在宅なのだ。先見の明があるボクは、数年前から「在宅に取り組まない薬局に未来はない」と思って、本腰を入れてきた。

 それが実を結び、最近やっと、うちの薬剤師が地域で認知されるようになって、訪問看護師やケアマネジャーの紹介で在宅患者を紹介してもらうようになり、さらに口コミで施設からの引き合いも増えてきた。やっと軌道に乗り始めたところなのだ。 もちろんNの言うように、薬剤師不足は深刻だ。でも、Nがその施設の依頼を断りたい理由が他にあることに、ボクはうすうす気付いている。

 在宅に取り組む薬局が増える一方で、施設在宅の処方箋を手放す薬局が増えていることをご存知だろうか。月当たり1000枚以上の処方箋が出る施設もあり、普通なら喉から手が出るほど獲得したい“お得意様”。それをなぜ手放すのかといえば、厄介な施設だからにほかならない。薬局もいろいろあるが、施設の質の格差は大きく、特に薬の管理がずさんな施設はいっぱいある。なぜか、そういう施設に限って、薬剤師をコキ使う。

 うちの薬剤師は一包化はもちろん、患者の氏名や用法用量を印字して、服用時点ごとに異なる色の線を引いている。これはスタッフが手間なく間違えずに配薬できるようにという配慮なのだが、ある施設の看護師は、患者Aの朝の薬には赤の線を、患者Bの朝の薬には黒の線を、といったことを平気で言う。「間違いのもとだから、施設内で統一しましょう」と、いくら言っても聞かない。

 揚げ句の果てには、この入所者の薬は名前を入れないでほしい、この人には日付を書いてほしいなど、言いたい放題。しかも、翌日でも構わないような薬でも「今すぐ届けろ」と言ってくる。ひどいスタッフは、夜間トイレに行きたいと言われると面倒だから、就寝前に水分を取らせたくないという。

 こういう施設を担当する薬剤師は疲弊し、やる気をなくしていく。月1000枚の処方箋よりも優秀な薬剤師の方が大切、というわけで手放さざるを得なくなるのだ。

 こういった問題を少しでも減らすためには、施設の薬剤管理業務について何らかのルールが必要だと思う。われわれのような中小薬局チェーンだけでルールを作っても統制できるはずがなく、ここは某団体にお願いしたい。これから2025年に向け、もっと増えるであろう施設在宅に、「これ以上は無理です!」と、ボクが言ってしまう前に……。(長作屋)