今回の教訓

 診療所の開業に際し、スキルのある医療事務の経験者を採用できると開業当初の業務がスムーズに運ぶことになる。だが、履歴書に医療事務での業務経験が記載されていても、実際に何をどのように経験したかをより具体的に確認しなければ、採用後、業務に支障が出たりトラブルが発生することもある。

 今回のケースのように、「知人の紹介」「大きい病院での勤務経験がある」といった要素があると、どうしてもチェックが甘くなりやすい。診療所では、採用人数が少ないので幅広い知識を求められることが多いが、出来る人材を一般募集で採用するのは難しい部分もあり、紹介に頼りがちになる。知人の紹介の場合、多少の未熟さがあっても何とかしようと試みて、結局失敗するというのがよくあるパターンだ。職場が違えば見方も変わる。知人が「仕事ができる」と評価しても、自院で通用するとは限らない。

面接官に業務経験者を加えることも
 病院での業務経験に関しては、勤務年数5年未満では、診療所で必要とされる業務の全てを任せられるようになっている例は少ない印象だ。電子カルテの普及により、レセプト請求業務の幅広い知識やスキルを持つ人材が以前より随分少なくなってきているし、経験した診療科目によっては、これまでの知識が役に立たないこともある。

 特に派遣スタッフとしての勤務経験の場合、医療事務の資格を取得していたとしても病院では部分的な業務に就くことが少なくない。レセプトなどの請求業務に携わったことがほとんどないという人もいる。よって派遣スタッフとして病院の勤務経験があっても、業務内容の詳細な確認が重要となる。採用時には、可能であれば医療事務の業務経験を持つ人を面接官に加えることをお勧めしたい。

 もちろん、ある程度の知識しかない人でも、勉強しようとする姿勢や対応力があれば、頼りになる人材として育っていくこともある。それを見極めることは簡単ではないが、少なくとも、経験者というだけで判断が甘くなることのないよう注意したい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。