4月3日、入社式を盛大に執り行った。今年は10人近い新卒薬学生が無事、国家試験をパスして入社してくれた。
入社式では、ボクが一人ひとりの名前を呼び、うやうやしく辞令を交付して、お決まりの挨拶をした。役員や人事担当者たちは内心、「よくも毎年、同じ挨拶するよなぁ」と思っていたかもしれないが、新入社員は目をキラキラさせて、誉れ高き祝辞に聞き入っていた(はず)。「なんてスピーチが上手な社長さん!」と感激してくれた(はず)。
入社式といえば、壇上から経営幹部が挨拶し、新入社員は壇下に座って聞くのが一般的であり、我が社も例年はそうだった。しかし今年は趣向を変えて、新入社員を壇上に座らせ、ボクたちが壇下で会を進行することにした。
というのも、遠い昔になるが、息子の小学校の入学式を思い出したからだ。体育館のステージに新1年生が座り、教師や上級生、保護者は壇下から挨拶したり、校歌を歌ったりする演出だった。壇上の新1年生の、照れながらも誇らしげな表情が今も忘れられない。
なんだかんだ言っても、今の時代、薬剤師になるのは簡単ではない。中学、あるいは小学校高学年から塾に通い、高校・大学受験を経験して、6年間も大学に通い、実務実習を経て卒業試験にパスして、国家試験に合格。さらに超難関とされる弊社の入社試験(…というのは冗談)を突破し、やっとのことで社会人になったのだから、すごいことだ。そして入社すれば、翌日から研修が始まり、学生時代との違いに戸惑い、時にはつらい思いをするだろう。だから、せめて今日だけでも主役でいさせてあげたい。そんな深〜い思いから、新入社員を壇上に座らせたのだ。
ボクは壇上の新人たちを「こんなに新入社員を採れるなんて、我が社も立派になったものだ」と感慨深く眺めていた。
新入社員はきっと「自分たちが壇上だなんて…」と恐縮し、社長の心優しい気遣いに感動するに違いない──。そう思って壇下から新人たちを見上げたところ、ちっとも恐縮する様子がない。それどころか、妙に堂々と僕たちを見下ろしているではないか!
ちょっと待てよ、社会人&医療人として第一歩を踏み出したこの子たちを、上座からスタートさせたのは間違いだったのではないか、この先ずっと上座に置かれるのが当然だと思ってしまわないか、と心配になってきた。
ボクが製薬会社のMRだった頃、大学病院の医局には完璧なヒエラルキーが存在していた。会合は、上座に教授、2番目に助教授、その次に講師、下座に平の医局員というように席が決まっていて、助教授以下全員が時間までに着席し、教授が現れると全員が立ち上がり頭を下げる。動きの悪い若手は先輩から叱られたものだ。
医療を行う上で指揮命令系統をはっきりさせておくことはとても重要であり、こうしたヒエラルキーは必要不可欠で、その序列の中で医療人を育てることが大切だと思っているボクは、古い人間なのだろうか。
案の定、入社式後の新人歓迎会で、ボクが会場に到着しても誰一人として立ち上がったりはしない。ボクのグラスにビールが入っていなくても、誰も注ごうとしない。「気さくな社長を目指しているのだから、これでいいんだ」と自分に言い聞かせながらも、何か間違っているような気がしてならなかった。(長作屋)