トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所では業務で使用するため、スマートフォン1台、タブレット端末1台を契約しており、業務システムと連動させて活用するほか、外部の研修参加の際に持参してもらっている。

 院長は最近、このスマートフォンやタブレット端末をベテランの事務職員B子が日々、独占的に使用し、私物化しているという話を聞いた。スタッフたちの間で、不満の声が上がっているという。

 B子は勤続年数が最長で、誰も直接的に文句が言えないのをいいことに、勝手にタブレット端末などに様々なアプリを入れたり、ゲームなどで楽しんでいるらしい。業務システムと連動させて使いこなすことができ、一部の業者とのメールによるやり取りも行ってくれるため、院長自身、B子の独占使用はやむを得ないものと思っていた。

 しかし、他の職員から「業務と関係がない人とメールのやり取りをしている」「仕事のふりをしてゲームをやっている」といった声が上がっている以上、対処せざるを得ない。院長はタブレット端末などを取り上げてチェックしようとした。

 するとB子は、院長の確認を頑なに拒んだ。「パスワードを設定しているから」などと言うのだが、何か隠しているように思えてならない。強引に取り上げて中身を確認することもできなくないが、事を荒立てることはしたくないので、対応に困っている。

今回の教訓

 日常的には使用しないものの、あれば便利であるという理由で診療所においてもスマートフォンやタブレット端末を契約しているところが少なくない。院長から連絡を取るだけなら、個人のスマートフォンなどに連絡をすればよい話であるが、個人所有のものを業務に利用したくはないといった声が上がりがちだ。A診療所のように業務システムと連動させる目的もあり、契約をするようである。

 しかし、こうしたものを十分に使いこなすことができず、また使用頻度が低いことで、ベテランなどの一部の職員がそれを独占使用し、半ば私物化しているケースが散見される。特に、それを古参のベテラン職員が使用していれば、スタッフたちは不満があっても直接文句を言いにくい。「なぜあの人だけ利用が認められているのか」といった不公平感を抱き、内心は気分が良いものではないことが多い。

業務利用でもプライバシーの問題に注意を
 職員が勝手にアプリを入れるなど私物化するケースに対し、診療所の院長は「所有権は診療所にあるのだから、取り上げてチェックすれば済む問題では」と考えることが多いようだ。しかし、独占的に使用させているスマートフォンやタブレット端末、時にはパソコンなどについて、その利用状況を確認する場合、いくら業務利用であるとはいえプライバシーの問題が発生する点に注意をしなければならない。

 この「確認する」という行為はモニタリングといわれており、経済産業省が2009年に策定した「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」では、「働く従業員に対してのモニタリングを実施するための留意点」をまとめている(注:同ガイドラインは今年5月の改正個人情報保護法の全面施行により、個人情報保護委員会が定める「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」他に吸収、一元化されている)。