Illustration:ソリマチアキラ

 1000万円も残っている!!

 7月半ば、会計事務所から受け取った4-9月期の資金繰り表を見て、ボクは小躍りした。今年は調剤報酬改定もあり、苦戦を強いられると思っていたのに、蓋を開けてみれば、こんなに好調……のはずがない。

 ボクは毎日、薬局からの日計表を見ているが、薬価改定の影響もあり、店舗の8割で売り上げ減。ボクの天才的直観的試算(?)では、処方箋平均単価は600円程度下がっているはず。よくよく資金繰り表を見ると、薬剤師の採用経費が予算を大幅に下回っていた。

 ボクの会社は薬剤師の採用にかなり力を入れている。現場の薬剤師が全く足りていない今、1人でも多くの薬剤師を採用したい。新卒薬剤師が計画通りに採用できれば、現場の薬剤師にゆとりを持って仕事をしてもらえるし、健康サポートも、かかりつけも、在宅も、もっともっと充実させられる。

 売り手市場のご時世。ココだけの話、新卒薬剤師を10人採用するのに、2500万円くらいの予算を確保している。このうち1500万円程度は就職セミナー参加費やパンフレットなどの制作費、残りの1000万円程度は人材紹介会社への支払いに消える。

 最近は、中途採用のみならず、新卒採用も人材紹介会社のお世話になっている。人材紹介会社も様々だが、うちの特徴を把握して、社風に合った薬学生を選び、その薬学生に対してプレゼンまでしてくれるから、年間1000万円程度を支払うだけの価値はあると考えている。それで毎年4~6月に内定を出すと、人材紹介会社への支払いが発生するが、事もあろうに、今年は1件も支払いが生じていない。

 なぜこんなことに……。思い当たる理由の1つは、人事担当と相談して、採用活動の戦略を変えたこと。早期離職を防ぐために、うちの会社を理解して就職してもらおうと考え、会社説明会に来た薬学生に何度か面接し、本社や複数の店舗を見学してもらおうという戦略だった。正攻法であり、あるべき姿といえる。しかし、その真面目な姿勢が裏目に出た。時間をかけている間に、他の薬局に内定を出されてしまったのだ。風の噂では、会社説明会に出席した薬学生に、端から内定を出している、とんでもない会社もあるという。ムムム。

 もう1つの理由は、薬学生の志向が大きく変わってきたことだ。うちは、新卒採用を始めた時から一貫して、基幹病院前の大型薬局をウリにしてきた。しっかりとした調剤技術が身に付く、専門医のさじ加減の処方が学べる、様々な診療科の処方箋を経験できることをアピールし、それが薬学生に響いていた。

 ところが今は、基幹病院前の大型薬局はまるで人気がなく、「健康サポート機能を備えた地域のかかりつけ薬局」に学生の興味は移っている。実際、うちは15年以上前から健康フェアを実施していて、就職説明会でその話をしてきたが、以前はほとんど反応がなかったのに、今では目を輝かせて聞き入っている。この2年ほどで完全に潮目が変わった。

 ボクも行政の動きにはそれなりに敏感に対応してきた。しかし、学生までもがそれになびいているのを目の当たりにして、何だか日本の未来を憂えてしまう。と、のん気な事を言っている場合じゃないと思いつつ、頭が痛い。また台風が来ているわけじゃないのに。(長作屋)