この協定の締結は、労務管理上、非常に重要な手続きである。こうした手続きを行っていれば、業務として残業を命じることは違法とはならないし、拒否をすれば業務命令違反ということで、内容や程度によっては制裁処分の対象となる。

 一方で、後者の「配慮」とは、拒否の理由によっては残業を免除した方がよいこともあり、その都度、事情などを確認して判断しなければならないということである。例えば、同居家族が病気で自分以外に誰も面倒を見ることができない状態の中で、早く帰宅して食事の準備をしなければならないのであれば、それを無視して残業を命じるのは酷な話である。これに対し、残業を逃れるために急きょ友人と飲み会を設定しようとするような場合、同居家族の病気の例と並列に考えるのは無理がある。

 以上を考えると、時間外労働・休日労働に関する協定が締結、提出されており、拒否理由に相応の配慮がなされている場合には、スタッフは指示された残業を拒否できないことになる。

業務管理の見直しで残業削減できないか?

 ただし、それ以前の問題として考えなければならないのは、その業務は本当に当日中に処理し終えなければならないのか、翌日に処理することはできないのか、という点である。何となく、「今日中に片付けておいた方がよいから」ということで残業しているケースは少なくない。

 さらに突き詰めると、業務管理に問題がある例も見られる。受付時間が過ぎても診療所入口のカーテンが開けっぱなしになっていて、入ってくる患者を無制限に受け入れたり、一部の職員だけ残ればよいのに全員を残したり、長時間のミーティングを診療時間終了後に行うといったケースである。こうした診療所では、業務をうまくコントロールすることで、残業そのものを大きく削減できることもある。

 冒頭に紹介したA診療所では、残業を拒否し続けたB子に対し、院長が「あなたの仕事の分を他の職員が補っている」と、他の職員のタイムカードを見せて説明した。同僚たちの残業時間の実情を知ることとなり、さすがにB子も思うところがあったようで、以降、残業を断ることがほとんどなくなった。

 さらに院長は、パート職員を増員するとともに、公平性の観点から各スタッフに「ノー残業デイ」を設定してもらうことにした。これにより、各スタッフはあらかじめ設定した「ノー残業デイ」には残業をしなくてもよいこととなった。こうした対策が奏功し、職場の雰囲気は徐々に改善しつつあるという。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。