今年は内定者のほとんどが薬剤師国家試験に合格し、10人の薬剤師が入社してくれる。ホッとするのは一瞬で、気が付けば来年の新人のリクルート活動が佳境を迎えている。既に何度も会社説明会を開催しているが、学生の大手志向が年々高まっていると感じる。
ボクはボクなりに、全国展開に背を向け、地元密着で小粒ながらキラリと光る薬局づくりを目指してきたが、学生に「企業規模が……」と指摘されると、「弱小」「零細」と言われている気がしてションボリしてしまう。経営者の薬剤師育成に対する考え方や地域医療に対する情熱で選んでくれるのなら、いくらでもアピールできるのだが。
最近、新卒薬剤師募集の広告でよく見かけるのが「奨学金の返済をお手伝いします」的な文言だ。日本学生支援機構などから奨学金を借りた人を対象に、卒業後の返済をサポートする制度を、多くの会社が用意している。
この制度は、毎月の返済金額を給与に上乗せする給付タイプと、入社時などにまとまった金額を貸与するタイプの2種類に分けられる。給付タイプは返済の必要はない。また、貸与タイプも勤務年数に応じて返済を免除する会社が多いようだ。金額や返済免除期間などは会社によって異なるが、「600万円コース」など金額を明示している会社もあった。
薬学教育が6年制になり、その分、学費もかかる。奨学金を借りる学生は多いらしく、当社にも奨学金を返済している若手社員がいる。返済を考えると、できるだけ給与が高い会社に就職したいと考えるのは当然だ。
以前にも書いたが、うちのような中小チェーンですら、新卒薬剤師のリクルート活動には何千万円ものお金をかけている。先日、人材紹介会社から、年収の5割を手数料として払えば、優秀な薬剤師を優先的に紹介するという、とても魅力的な“悪魔の誘い” があった。とはいえ、同じ金額を人材紹介会社に払うか、社員の奨学金返済に当てるか、どちらかを選べと言われれば、迷わず社員に使うだろう。
しかし、ボクの中では何となく納得がいかないのだ。
この制度は、奨学金を借りた人が得をする。給付タイプは言うに及ばず、貸与タイプであっても、一定期間勤めて返済免除となれば、会社からある一定の金額をもらったことになる。奨学金を借りなかった人は、親御さんが頑張って学費を納めたに違いない。
奨学金を借りた人だけを優遇してよいのだろうか。それとも不公平にならないような、うまいやり方があるのだろうか。
もう1つ気になるのは、かつて看護師で問題になった「お礼奉公」のこと。医療機関から学費を出してもらい、働きながら看護学校へ通い、看護師免許を取得した後に一定期間、その医療機関に勤めるという制度を巡る問題だった(今もあるかもしれないが)。学費を出したことを理由に、一定期間の就業を強制することは、憲法の「職業選択の自由」に違反するという判決が下されたと記憶している。どういう場合なら法的に許されて、どういう場合はダメなのか、その加減がどうも分からない。
そういえば、日経DIの「薬局なんでも相談室」に、いつも労務関係の疑問に詳しく答えてくれる特定社会保険労務士の先生がいた。ぜひ奨学金返済サポートの法的な考え方について教えてもらいたいものだ。(長作屋)