また、事務職員として働くスタッフは、「同僚を管理する」ということを嫌がるケースが少なからずあり、横並びで和気あいあいとやっていきたいと考える傾向が強い。「出る杭は打たれる」ことを懸念する人もいて、無理にリーダーとして任命しても機能不全に陥りやすい。加えて、院長がリーダーを選任する際、適性ではなく、単に勤続年数が一番長いという理由で任命することが多いため、仕方なく引き受け、結果としてリーダーシップを発揮できないというのがよく見られるパターンである。

 A診療所のような問題に対処するため、外部の「リーダーシップ研修」などを受講させる医療機関も多いが、一度や二度、そうした研修を受講したからといって状況が改善される可能性は低い。

院長による「伴走」の勧め

 こうした問題の防止策や対応策を講じる上で、まず考えなければならないのは、そもそも各部門にリーダーが必要なのか、という点である。場合によっては、看護部門でリーダーシップを発揮してくれる職員がいるのであれば、その看護師に全体を任せるという考え方もある。

 また、新たにリーダーを任命する場合、しばらくの間、院長が本人に「伴走」し、一緒に対応を進めるといった方法も考えられる。その過程で自ら考えてもらうことで、自分自身の役割を改めて認識したり、リーダーとしての仕事の幅を肌で感じられる効果が期待できる。

 さらには、一定の権限を与え、それを具体化してもらう方法も考えられる。例えば、備品などを購入する際、1カ月当たり最大3万円まではリーダーの権限の範囲内で購入できるという取り決めをして、それがうまくいけば、裁量の幅を増やしていくといったやり方である。こうした方法を取れば、自分なりに効果的な方法を考えるようになることも期待できる。

 以上のほか、手当のあり方も再考が必要であろう。リーダーに任命したからといって、いきなり満額の手当を支給するのではなく、まだ慣れない時期には月額1000円、3カ月後に月額2000円、さらに3カ月後に1000円増額といったように、一定の上限まで徐々に引き上げていく方法を採用してもよいだろう。そういった方法であれば、周りの職員の理解が得られやすくなり、「何であの人がリーダーなのか」といった不満も生じにくくなる。

 A診療所のケースでは、その後しばらくの間、院長がBに伴走するように動くことにした。Bが「どうすればよいですか」など、相手に判断を委ねるような言葉を発した際には「それはあなた自身が決めることだよ」と伝え続けた結果、本人の意識も徐々に変わり始めた。チームとしての意思決定が行われず、業務連絡に終始していた事務部門の組織風土も少しずつ変わり始め、スタッフたちが徐々に一体感を感じるようになったとのことである。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。