Illustration:ソリマチアキラ

 日本中の薬局経営者がそうだと思うが、ボクも今、会社の組織の世代交代に力を入れている。もともと細かいことはやりたくないし、できないタイプだからか、人に仕事を振るのは割と得意だ。我ながら、社長に向いていると思っている。というか、もう社長以外の仕事はできないのではないか、とさえ思う。

 人に仕事を振るための秘訣は、「細かいことには目をつぶり、やらせてみる」に尽きる。ただし、譲れないことは譲らない。そのバランスが難しくて、こだわり過ぎると、「じゃあ、社長がやってくださいよ」と言われてしまう。こだわり過ぎないと、思い描く組織にならない。社長業は子育てと似ているかもしれない。

 ボクと違って人に仕事を振るのが苦手な経営者Yは、「ウチの薬局には、学会活動をしたり論文を書ける若手がいない。とても任せられない」とボヤく。おいおい、そういう薬剤師を育てるのが経営者たるキミの仕事ではないか。

 経営者Yの一言で、ふと思い返したことがあった。ボクは、かつて製薬会社のMR(当時はプロパーと言った)として大学病院を担当し、医者の世界を見てきたこともあり、学術的な活動への憧れがある。学究肌の薬剤師軍団を作りたいという気持ちが、薬局を開局した当初からあった。規模は小さくてもいいから、何か光るものがある、業界をけん引するような薬局にしたいと本気で思っていた。「あの薬局で働いていたなら、薬剤師としての知識、スキルは確かだ」と言ってもらえる薬局を目指していた。

 だから、「臨床薬学」なんて言葉を、随分早い時期から使っていて、「医療は臨床だ !」と言っていた(薬剤師の臨床が何なのか、その当時はよく分かっていなかったけれど……)。

 一方で、ヨーロッパの街にある薬局に感じ入るところがあり、未病治療だとか、処方箋がなくても入れる薬局を目指すべきだ、と言い続けてきた。手前味噌になるが、今言われている健康サポートのようなこととか、かかりつけなんてことは、20年以上前から言ってきたし、在宅だって10年以上前から手掛けている。お薬手帳を活用した健康管理や、近隣医療機関と共同で開催する健康フェアも、ずっと昔から取り組んでいる。これらの取り組みを毎年、日本薬剤師会学術大会で何人か発表していたし、業界誌にもしばしば取り上げられた。

 ところが、いつの間にか、学会活動を行う薬剤師がほとんどいなくなった。ましてや、学位を取ろうという薬剤師もいなくなっている。ボクなりに一生懸命、笛を吹いてきたにもかかわらず、気付けば誰も踊っていなかったのだ。

 お世話になった医学部の教授が言っていた。「教授の評価は、医局員の中から市中病院の院長を何人輩出したかと、何人に学位を取らせたかで決まる。自分の治療成績ではないんだよ」と。さしずめ薬局の社長なら、店舗をどれだけ作ったかと、何人の社員に学位や医療経営学修士(HMBA)を取らせたかといったところだろう。店舗開発はそれなりにやってきたが、ここ2年ほど新規出店は止まっている。学位やHMBAも、社員に声は掛けているが、ここ数年、誰も取得できていない。

 その教授はこうも言っていた。「幹がなければ枝は出ない」と。幹とは、すなわちボクのこと。あぁ、ひとえにボクの至らなさか……。夏の終わりに何ともトホホな気持ちになってきた。 (長作屋)