ボクは常々、心の中で社員に向かって「君の人生はボクが守る」とつぶやいている。ボクは、会社オーナーではなく「守り人」だと思っているのだ。「プロパー上がりのバブリーな非薬剤師の社長が、何をキレイ事、言ってんだ」なんて思っている方もいるだろうが、本人は案外、本気でそう思っているのだ。
もちろん、自分のことも大切だ。カッコいい車に乗ったり、おいしいものを食べたり、いい生活をしたいという気持ちは強い。しかし、自分が少しいい生活をするためだけであれば、そんなに頑張る必要もない。やはり、せっかく縁があって一緒に仕事をする仲間たちに「この会社で働いて良かった」「人生が豊かになった」と思ってもらいたい。そのことが、社長業がツラいと感じた時の心の支えになったり、原動力になっているのだ。でも、本当にみんなボクの会社で良かったのか、先日、そんなことをふと考えさせられる出来事があった。
東京のM&A(合併・買収)コンサルタント会社のAさんは、紺のスーツが似合うアラフォーのナイスガイだ。最近、関西出張のたびにボクの会社に立ち寄る。既にアラ還のボクに跡取りはいない。「そろそろ……」と狙われているのだろうか。そのAさんが東京都心に家を建てたという。話を聞く限り、それなりの広さがある邸宅だ。この年齢で都心に豪邸を建てられるなんて、実家が資産家なのか……。そう思いながら、ふと、ネットで社名をググってみた。すると……、Aさんの会社は社員の平均年齢が31.2歳で、平均年収は、な、な、なんと3109万円と書いてある!!!コミッション制と書かれているので、人によって大きな差があるのだろうが、それにしてもスゴイ。さらに驚くことに、Aさんは薬剤師だという。薬学部を卒業して外資系の製薬会社を経て、今の会社に入ったらしい。
同じ薬剤師といっても人生色々だなあと思いながら、他にも調べてみると、製薬会社のT社は平均年齢41.5歳で平均年収は1094万円、E社は44.4歳で1037万円。一方、大手薬局チェーンのA社は40.2歳で631万円、N社は35.1歳で545万円。平均年齢も異なるし、平均年収なので一概には比較できないが、この格差は大きい。さらに、病院薬剤師は薬局薬剤師よりも給与が安いと聞く。高い学費を6年間払って薬剤師免許を手に入れるにもかかわらず、ライセンスが必須ではない仕事の方が報酬が断然高いというのは、何だか皮肉だ。
では、ボクの会社はといえば、きちんと計算したことはないが、平均すればだいたいA社くらいだろう。もちろん、幸せの基準は、経済力だけでないことは重々分かっている。しかし、ボクとしては、社員に仕事の場をつくって、それなりの給与を払うだけじゃ情けない。社員皆が楽しく充実した仕事ができる環境をつくること、そして少しでもいい生活をしてもらえるように給与を支うのが、ボクの夢だ。なのに、この年収格差を見るとがっくりくる。
全員に製薬会社社員と同程度の給与を支払うことは、今の調剤薬局という形態では到底無理だ。それどころか、今年は新型コロナの影響でかなり厳しい。医薬品卸との価格交渉を頑張るか、技術料をアップさせるか。
皆が楽しみにしている夏のボーナスの時期が、そこまで来ている。(長作屋)