実際に指導する際には、「必ず電話に出るように」といった言い方をすると、プレッシャーを感じて出勤しなくなるという最悪のケースになってしまうこともある。まずは、そもそも事務職員の仕事とは何か、なぜその仕事が必要なのかといった点を話し合う場を設けてもよいだろう。

 特に、若年世代のスタッフの中には、「今やインターネットの時代なので、電話など無意味。予約もインターネットにすればいいし、ちょっとした相談があれば、チャットのような機能を使えば済むはず。時代遅れの経営をすべきではない」という考えの人もいる。しかし、特に高齢者にとっては今も連絡手段の中心は電話であり、そうした考え方は地域の患者の視点が欠落していると言わざるを得ない。スタッフの意識と現実のギャップを埋めるためにも、仕事の内容や意味を改めて考えてもらう必要があると思われる。

「非通知・偶数」の場合はC子が優先して取ることに

 そのような議論の場を設けても改善しないようであれば、最終手段として、人事評価の結果や賃金に反映させることも考えざるを得ない。診療所のような小規模な組織では、お互いの評価結果や給与明細を見せ合うことがよくあり、そこで差がついていることが分かるとスタッフ間の不協和音が生じやすいため、金銭に結び付けて解決を図るのは本来は避けたいところではある。しかし、どうしても改善されないのであれば、人事評価において「積極的に電話に出ていたか」「電話応対はハキハキしていたか」といった評価項目を設けたり、管理は面倒になるが、1カ月間で何回以上電話に出たら「電話手当」を支給するといったような方法も考えられる。

 一方で、問い合わせの電話がよくかかってくる場合、ホームページなどによる情報発信が足りなかったり、受診時の医師・スタッフによる口頭説明が不十分で分かりにくいという問題が背景にあるケースも見られる。電話での問い合わせ内容を記録しておけば、そうした課題が浮き彫りになり、改善につなげられることもある。

 Aクリニックでは結局、B子とC子と院長の3人で話し合いの場を持つことにした。B子から事前に、C子との関係が険悪にならないようにしてほしいとの要望があったため、院長が「私が見る限り、B子さんばかり電話に出ているようですが、実際はどうですか」と話を切り出した。C子は、理由は語らなかったものの、自分が十分に電話を取れていないことを認めた。

 そこで院長は、電話機の配置を少し変えてC子がすぐに電話に出られるようにする他、かかってきた電話の番号表示を見て、非表示の場合または下1ケタが偶数の場合はC子が優先して取るということをルールとして設定。1カ月間運用してみたところ、C子はこれまでよりも積極的に電話を取るようになり、応対にも徐々に慣れてきたように見受けられたため、院長はルールを1カ月で廃止。今では「電話問題」は解消し、事務職員2人は、わだかまりなく仕事ができているようである。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。