家の近所に、ボクが月に1~2回訪れるラーメン屋がある。よくある「町のラーメン屋」だが、つい足が向くのだ。
そこに通い始めた20年ほど前、ボクは薬局の数を増やすことに一生懸命だった。隣に薬局がない医療機関を見つけたら、まずは近くに開局できそうな物件を探るといった日々で、「コンサルタント」を自称する不動産業者が、医療機関の近隣物件を持って頻繁に来ていた。日本中で、医療機関の門前の「陣取り合戦」を繰り広げていた。
陣取り合戦では、できるだけ大きな病院の、出入り口に近い場所をいかに押さえるかが、勝敗を決める。当時は、分業していない大病院前に“カラ家賃”を払い、社運を掛けて分業を待つなんてことを、あの会社もこの薬局もやっていた。大病院の門前の物件の賃料は高騰し、第1ラウンドは財力と経営者の度胸に軍配が上がった。
第2ラウンドは「在宅処方箋」奪取の長期戦だ。立地に関係なく、営業力があれば処方箋を集められる。大手企業と勝負できる!と喜んだが、処方箋は集まったものの、薬剤師の採用が追い付かない。仕事がオーバーフローして薬剤師たちが疲弊していった。大手は新人薬剤師を多く採用し、在宅分野を担当させている。そうこうするうちに、莫大な事業資金がモノを言う、敷地内薬局の波がやってきた。ボクの薬局の近隣医療機関の敷地内にも薬局ができて戦々恐々としたが、みんなの在宅の頑張りと、かかりつけの患者さんが利用し続けてくれていることで、何とか成り立っている。
そんな状況下で2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大である。これによって患者の挙動が急に変わってきた。これまで遠くの病院の門前薬局で薬をもらっていただろう近所の人たちが、うちの薬局に処方箋を持ってくるようになったのだ。夏過ぎから、複数の薬局で処方箋が前年比で増え始めた。
ボクは、創業当初から「近隣の人たちみんなが利用してくれる薬局をつくろう」と思い描いてきた。だが現実には、立地優先の薬局を増やしたり、在宅患者を増やしたりに忙しかった。それが今、満を持して、地域のための薬局がつくれる時代に変わり始めたのだ。第3ラウンドの始まりだ!
問題は、どうすれば地域住民にうちの薬局を利用してもらえるか。そこで、このラーメン屋である。ラーメンはそれなりにおいしいが、とびきり味がいいわけではない。“日替わり”定食と言いつつ、日曜日はいつもニラレバだ。もっとおいしくて特徴のある店はいっぱいある。でも、ボクはここに通い続けている。店主は、どんなに忙しくても必ず顔を上げて強い眼力と笑顔で「いらっしゃいまぁせぇ~」「あーりがとー、ございあひたー!」と声を張り上げる。ボクはその眼力と笑顔を求めて「腹減ったよー」「満腹満腹」と目で訴える。店主とは一度も会話したことがないが、そのやりとりが満足感となり、ボクをこの店に誘う。
翻って薬局である。薬局の魅力とは何か。薬剤師の臨床能力?医療機関との連携?それらも大切だが、結局は「人」だろう。医療機関だって愛想のいい内科がはやっているではないか。
ちなみに、ここのラーメン定食は880円。ボクらは患者さんから、いくらいただいているのだ?ラーメン屋に学ぶものは多そうだ。(長作屋)