Illustration:ソリマチアキラ

 トンビに油揚げをさらわれた——。今回は、ここ数年で一番悔しい思いをした話だ。

 ボクはこれまでに何軒もの薬局をつくってきたが、その多くで開局数年後にキャパシティーがオーバーするという経験をしている。余裕を持たせて作っているにも関わらず、だ。

 近年、ボクは複数のクリニックを誘致してその近くに薬局をつくる、いわゆるモール型の開局を主に手掛けてきた。開局場所を決める上では、若い世帯が多い住宅街から駅に向かう人流の多い場所を選ぶ。立地が良く院長の人柄(開業医はやはりココロだ)が良ければ、医療機関は繁盛する。患者が集まる場所には、医療機関も集まってくる。近隣に勝手に新たな診療所ができてくるのだ。さらに、薬局スタッフの頑張りで「面の処方箋」が増える。

 今回もそのパターンだった。もともと眼科があり、内科の開業と共に開局。その後、同じビルに精神科を誘致した。そこまではボクの仕込みだ。その後、近隣に耳鼻咽喉科、皮膚科の診療所ができた。駅からほど近い場所に、薬局と複数医療機関が集中するエリアが出来上がった。

 あっという間に薬局は手狭となり、2軒目を考え始めたころ、駅の近くにビルが建つことになった。オフィスビルで1階は店舗、ワンフロアを2区画に分けて募集があった。駅側とクリニック側の2区画で、ボクが狙ったのは家賃の安いクリニック側の区画だ。駅に近い方の区画は、外食チェーンが入ると聞いていた。その会社の本部決済が下りれば、ボクの薬局も入居が決まると聞いていたが、それがなかなか進まない。ビルの完成日はどんどん近づいてくる。開局に間に合わないギリギリになって、不動産業者から連絡があった。「あの物件、他の会社で決まりました。残念です」と。しかも、事もあろうに、1区画にチェーン薬局が入るという。

 その知らせを受けてボクはぼうぜんとした。実はこの案件、ボクは直接交渉せずに、若い本部スタッフに一任していた。頭脳明晰(めいせき)で優秀な男なのだが、詰めが甘い所がある。聞くと、不動産業者の言葉を信じて連絡を待っていたのだという。

 こうした物件では、通常、ビルオーナーから依頼を受けた不動産業者は、自ら店子(たなこ)を探しつつも、複数の不動産業者に声を掛ける。自分で店子を見つけられれば、オーナーと店子と両方から手数料が入る。声を掛けた不動産業者が店子を連れてきた場合は、オーナーからの手数料のみとなるが、いつまでも店子を決められずにいるよりも、早く案件を片付けたいもので、いち早く借り手を連れてきた不動産業者と契約をすることが多い。今回はそのパターンであり、別の不動産業者が2区画の店子を決めてきたのだ。こんな事態になる前に、対策を講じる必要があった。例えば、ビルオーナーと直接交渉するとか、フロア全体を借りて、1区画はサブリースという手もある。

 年間3億円の売り上げを見込めただけに悔やんでも悔やみ切れない。しかもそれを時間をかけて温めて、患者があふれる状況を作り上げたのは、医療機関と共に頑張ってきたボクたちの努力に他ならない。さらわれた油揚げは、あまりにもデカ過ぎる。あの処方箋はボクのものだ。取り返してやる!(長作屋)