Illustration:ソリマチアキラ

 ボクの薬局が担当する高齢者施設が突然、担当を別の薬局に変えると言ってきた。理由は不明だが、いずれにせよ薬局は大打撃だ。

 そこでエリア長会議で、地域の高齢者施設や在宅関係者とつながることが目標に掲げられた。在宅患者の処方箋を担当させてもらうことは大きな目的の1つだ。ただし、決してそれだけではない。地域包括ケアを担う一員として関係者とつながりを深めたい、地域に根差した薬局としてあるべき姿を追求する中で信頼を得て、できれば処方箋もいただければ……、そんな気持ちだ。

 エリア長たちは早速、高齢者施設などを片っ端から訪問しようとしたが、アポイントがうまく取れない。そこで昔取ったきねづかで、ボクが指導に当たることになった。ボクは製薬会社のプロパー(MR)だった頃、「コンサルティングセールストーク(CST)」を徹底的にたたき込まれた。これは、相手に「イエス」と言ってもらうための話法だ。幾つかの定跡があり、その通り話を進めると、不思議と交渉事がうまくいく。

 最初に目的をはっきり伝える。相手が「ノー」と言ったら、その理由を聞く。そして、それを1つずつ解消していくことで、最終的に「イエス」にたどり着く。ただし、ロールプレイを繰り返し、話法を徹底して身に付けることが肝心だ。まずは、電話でアポイントを取る練習を、ボクが施設スタッフ役となり、実施した。薬剤師A「もしもし、長作屋薬局のAと申します。率直に言いまして、施設の処方箋をいただきたく、施設長とお話をしたくて、お電話しました」。

 えっ……。驚いて、椅子ごとひっくり返りそうになった。確かに、「目的を率直に伝えろ」と教えたが、そこまで単刀直入に言っては身もふたもない。

 そこで作戦変更!親近感を覚えてもらう話法に切り替えた。まず、朗らかに「長作屋薬局のAです。お世話様です。施設長はいらっしゃいますか」から始める。「出掛けていて、今日は戻らない」と言われたら、「そうですよね、出掛けてらっしゃって、今日は戻られませんよね」と相手の言葉を繰り返す。そして、「午後はそういう日が多いですよね」と続ける。これは「あて馬質問」と言って、相手から情報を引き出す話法だ。相手が「でも、明日の午後はいますよ」など、情報を伝えてくれるのを期待する。

 そうして得た情報に合わせて、例えば「では、明日の午後に改めてお電話します」と話した上で、「施設長には、長作屋薬局のAからスタッフさんのミニ勉強会の提案で電話があったとお伝えください」と伝える。「ミニ勉強会の提案」という、土産を置いて足跡を残すことが大切なのだ。スタッフから聞いた施設長は、「長作屋薬局?誰だ、それ?」と思いながらも、「ミニ勉強会」が気になり、話を聞いてみようという気になる。

 この方法で面白いようにアポが取れるようになった。エリア長たちは喜々として電話を掛けまくっている。ふと不安になり、聞いてみた。「で、ミニ勉強会ってどんなことするの?」と。すると「えっ、そこまではまだ……」。

 うーん。アポはあくまでも入り口であり、手段だ。目的は、地域の医療・介護職とつながり、在宅医療・介護の質の向上を一緒に目指すこと。そして、我が長作屋薬局で在宅を担当させてもらう患者を増やすことのはずだ。地域の頼れる薬局への道のりは遠い。(長作屋)