イラスト:畠中 美幸

 Aクリニックは、以前から職員研修に積極的に取り組んできた内科系の診療所。院長は、自院のスタッフに適していると思われる研修があれば、リーダー格以外の職員にも受講させてきた。

 ある日、院長は、オンデマンド配信による接遇関連の研修を見つけた。オンデマンドであれば、リアルタイムでの視聴ができなくても、自分の都合の良いときに見られるので便利だ。そこで院長は、研修を申し込み、職員に対してURLやログイン情報を伝達。「皆さんの分を申し込んでおいたので、自宅などで見ておいてください。好きな時間に見られるので便利ですよ。視聴が終わったら、研修で学んだことを必ず『研修レポート』として提出するように」と伝えた。

 院長は「良い研修を見つけた」と喜び、今後も積極的にこうした研修動画の視聴を勧めていこうと考えていた。だが、研修の案内をした翌週の月曜日に、事務職員のB子から残業申請書が提出され、院長は戸惑った。
 
 B子から提出された残業申請書には、「○時○分~○時○分まで自宅で研修動画を視聴したため」と、その理由が書かれており、院長は目を丸くして何度も見直した。当初は驚きや戸惑いを感じていた院長だったが、その感情は次第に怒りに変わっていった。

 院長としては、自分の好きな時間・場所で視聴できるので職員にとって好都合だと思って勧めたのに、それを残業と捉えたことに強い違和感を抱いたのである。医師の世界では、時間外に勉強や研究を行うのは当たり前で、残業として考えるのはおかしいといった風潮が一部にあり、院長自身も勤務医時代にこうした研修を残業と捉えたことはなかった。

 残業申請書を提出したのは、B子のみだった。院長はどう対応すべきか分からず、社会保険労務士に相談してみることにした。