Illustration:ソリマチアキラ

 先日、ある学会で地方の某大学病院薬剤部の、30代後半とおぼしき薬剤師と知り合った。もらった名刺には感染制御専門薬剤師、栄養サポートチーム(NST)専門療法士、がん専門薬剤師、薬物療法専門薬剤師と4つもの資格が書かれており、さらに今、学位を取得しようとしているという。

 ボクがMRだった時代、「MR認定試験」ができる前だったが、担当する大学病院では独自にMRに試験を実施し、合格しなければ院内に出入りさせないというルールを作っていた。試験は、忘れもしない薬理、生理、病理、生化学、医学用語の5科目。ボクは経済学部出身で、ゼロからのスタートで、毎日必死で勉強したのを覚えている。ただ当時は、ボクだけでなく、医師も薬剤師も看護師も臨床検査技師も、みんな学位の取得や、学会の専門や認定を取得するために、遅くまで病院に残り症例をまとめたり論文を書いたりしていた。

 学会前には予演会があったり、上級医がダメ出しする姿が見られたり、そんな医療や学問に取り組む活気ある雰囲気が心地良かったし、憧れた。だから薬局を始めてすぐの頃は、薬剤師と一緒に日本薬剤師会の学術大会や国際薬剤師・薬学連合(FIP)で発表したり、近隣医療機関の医師と共同研究したり、内容やレベルはともかく、それなりに学術活動に力を入れていた。

 それがいつの頃からか、そうした“負荷”をかけると薬剤師がやめるようになったり、やれ在宅だ、やれ健康サポートだと、やるべきことが増えて、それどころではなくなったりで、今では学会発表や論文執筆をしようとする薬剤師は、ボクの薬局にはいない。研修認定薬剤師や認定実務実習指導薬剤師を取得する薬剤師はそれなりにいるが、専門薬剤師の認定や学位取得に挑戦する薬剤師はほとんどおらず、業務時間外に自分の腕を磨くために勉強するという文化がすっかりなくなっている。

 一方、冒頭の「病院薬剤師くん」は日々勉強し、専門薬剤師の認定を取得し、薬剤師としての知識と技術を身に付けている。環境が違うとはいえ、同じ薬剤師だ。薬学的な話は全くしなかったが、彼の知識やスキルは、うちの薬局の薬剤師に比べてはるかに高いのだろう。そういえば、ボクの薬局では採用時、重視するのはコミュニケーション力であり、薬剤師としての知識や専門性などはあまり問うていない。

 薬局であっても、やはり薬剤師の臨床力で勝負すべきだ。医療に貢献するために、自分の腕を磨くことに喜びとやりがいを感じる社風にせねば……。大手薬局チェーンは、既にそのことに気付いているのだろう。資格ホルダーを重点的に採用しているし、社内でも認定取得をサポートする制度を強化しているという。

 よし、今年は研修予算を増やして、認定・専門薬剤師資格を取得する人を今以上にバックアップして、何年か後には専門薬剤師や学位を持たないことが恥ずかしいと感じるような会社にしてやる。勉強しない者は去れ、だ!

 と、勢いづいてみたものの、それをやったらやめる薬剤師が続出するのでは、と心によぎる。しかも、それをやっても会社はちっとももうからない……。理想を求めるべきか、目の前の現実を受け入れるべきか──。今年も、社長の悩みは尽きそうにない。(長作屋)