Illustration:ソリマチアキラ 

 最近、ボクの会社の特徴がなくなってきている気がする。20年ほど前は、在宅医療に取り組む薬局はまだ少なく、無菌調剤室を作って「在宅に力を入れる!」と宣言し、それなりに先進的な薬局として認識されていた。在宅に関わらず、あの頃は何かと新しい取り組みを実践しては学会で発表する活動も盛んに行っていた。しかし、今や在宅はどこの薬局でも取り組んでいるし、薬局薬剤師が参加しやすい学会が増えたこともあり、学会に積極的に参加している薬局も珍しくなくなった。

 その一方で、長作屋薬局では在宅は相変わらず頑張っているものの、学会発表については、この10年くらい誰もしていないという情けない状況だ。

 以前にも書いたが、ボクは、製薬会社のMRだった頃から、学会が大好きだった。当時、学会発表する医師たちのスライド作りを手伝って写植屋に走ったり、予演会のお弁当を手配したり、学会前から忙しかった。予演会では若手の発表者は、徹夜で仕上げたスライドを医局長や指導医にボロカスに言われて、泣きそうになりながら、また徹夜でスライドを作り直す姿をよく見かけた(もちろん、ボクたちも手伝うわけだが)。

 学会当日は、発表する先生のかばん持ちを理由に、学会会場までついていく。当時は、オンライン開催なんてなかったから、やれ札幌だ、やれ沖縄だと、開催地によって発表する学会を決めたりして、かばん持ちも随分楽しかった。

 夜には、参加した医局員全員が集まって、その土地のおいしいものを食べるのが通例だった。徹夜でスライドを作り直した甲斐あって、当日はいい発表ができた若手が、宴席で「よく頑張ったな」と上級医から声を掛けられる姿を見るのも楽しかった。

 そんなこんなで会社を立ち上げた当時は、長作屋では学会活動に力を入れていたのだ。口頭発表で、会場からの質問に発表者である若手薬剤師がしどろもどろになっている時に、サッと手を挙げて「共同研究者の長作屋でございます。ご質問について、発表者に代わって……」と、出ていくのがとてもうれしかった。学術大会は戦いなのだと思っていた。

 忙しい中、準備を進めて、終わった後にその土地のおいしいものを皆で食べる。しかも会社のお金で。長作屋では、発表者は交通費も含めて学会参加費は会社負担だ。こんなに楽しいイベントは他にはない。にもかかわらず、今では誰も発表しようとしない(泣)。

 聞くところによると、会社に知らせずに自費で学会に参加する薬剤師がちらほらいるらしい。学会には参加したいが発表するのが嫌だというのだ。ボクに見付かったら「お金は会社で出すから発表しろ」としつこくしつこく言われるから、黙っているらしい。苦労すればその分の充実感は大きい。夜のお酒も3倍くらいおいしくなる。それなのに……。

 もういいっ!薬剤師が誰も発表しないなら、ボクが発表してやる!応需している処方箋情報や患者情報、スタッフの人件費や固定費などのデータを集めて、利益率と関連するファクターを分析して、どういうタイプの薬局が最も経営効率が良いかを解析するといった研究はどうだろう。これこそ、立派な薬局経営学ではないか。どこの学会ならアクセプトしてくれるかな。開催地が札幌か沖縄の学会を探さねば。(長作屋)