Illustration:ソリマチアキラ 

 ボクが薬局を立ち上げた頃、業界内の一番の関心事は待ち時間削減と調剤過誤防止で、そのための薬剤調製の効率化が求められていた。最近はその目的が、対人業務へのシフトに変わりつつあるが、調剤業務の効率化は、今も昔も保険薬局の超重要課題だ。

 開局当時、地域の基幹病院から何人かの薬剤師が転職してきたが、彼らは薬剤調製のスピードが群を抜いて早かった。大規模病院の門前薬局では、応需処方箋枚数も多く、いわゆる“重たい処方”ばかりで、待ち時間が長くなりがちだったが、病院からの転職組が休憩から戻ると、待合の患者がみるみる減っていくのが分かるほどだった。

 皆が彼らのようであれば人手不足はかなり緩和されると思うが、そうはいかない。この30年近く、現場からは常に「人が足りない」と言われ続けてきた。その対策として、長作屋薬局では早い時期から機械化に懸命に取り組んできた。手まきの分包機が主流だった時代に、全自動分包機や全自動散剤分包機を取り入れた。PTPシート全自動薬剤払出機、いわゆるピッキングマシンもいち早く導入した。当時は、うまく使えず逆に手間がかかり、苦労したものだ(詳しくは本誌2017年2月号本連載)。

 精度の高さで話題になった一包化鑑査支援システムも、調剤ロボットも既に導入している。もちろん調剤助手へのタスクシフティングも会社を挙げてやっている。にもかかわらず、効率化は思うように果たせていない。大規模薬局では、薬剤師1人当たりの平均処方箋枚数は20枚/日にも及ばない。これが25枚になれば、少しは余裕が出るだろう(利益も出る)。だが、これ以上の機械化、効率化は難しい。

 そんなことを考えていたある日、医薬品卸の物流センターを見学に行って、衝撃を覚えた。ボクたちがやってきたことは一体何だったのか、と。

 10年ほど前から、卸の効率化が進みつつあるのは感じていた。配送を1日1回にし、1ルートでの配送効率を高めるために工夫していた。「ノー検品」もその一環だ。以前は納品時には卸のMS(医薬品卸販売担当者)が薬品名と個数を読み上げて、薬剤師がチェックするといった検品作業があった。それが、箱の数を確認するだけの「ノー検品」になり、検品作業に費やす時間が大幅に短縮された。機械化が進んだ結果、間違った品物が納品される確率はゼロに近くできるのだと、当時聞いた。それが5年ほど前だが、今回見学した物流センターでは、発注書データがそのまま伝票データとなり、そのデータを基にロボットがモノ(薬)を集めて、梱包するまでが完全自動化されており、99.999%(!)ミスが起こらないという。

 見学させてもらうに当たり、ボクは手土産を持って行った。センターには多くの人がいるだろうから、せんべい72枚の詰め合わせを選んだのだ。それなのに、センターには人がいなかった。

 ひと昔前、卸の仕事は人海戦術だった。それが今や、最先端のロボット工場だ。規模は大きく違うが、薬を正確に集めて顧客に渡すという業務は、薬局も同じだ。にもかかわらず、ボクたちの言う「機械化」は、何とアナログなのだろうか。このままでは調剤は卸にとって代られてしまうのではないかとさえ思ってしまった。時代は確実に変わってきている。なのにわが社は……。(長作屋)