Illustration:ソリマチアキラ 

 2024年4月、長作屋には20人を超える新卒社員が入社した。人事担当者の努力と内定者たちが頑張って国家試験に合格してくれたおかげだ。

 我が社では毎年4月1日の入社式には、白衣授与式を行う。あの“失敗しない”天才外科医も着ていた高級白衣に、長作屋のマークを入れた特製品を用意し、ボクが1人ひとりに着せるのだ。これから医療人として現場で活躍してほしいと、10年ほど前に始めた儀式だ。

 その後、白衣を着た姿をプロのカメラマンに撮影してもらっている。その写真は、薬剤師、社会人になれた喜びと感謝の言葉とともに親に渡すよう、新人たちに伝えている。医療人としての第一歩を踏み出すこの日のことを、心に刻んで頑張ってもらいたい、そしてその姿を親御さんに見せてあげたい──、そんな思いからだ。

 年によって多少の違いはあれど、入社式の日の雰囲気は格別だ。みんな緊張と不安、期待が入り交じった顔をしている。今年のフレッシュマンたちは特に緊張している様子で、こちらがあれこれ話を振って和ませようとしても、なかなか表情が崩れない。その緊張は、夜まで続いた。入社式の日の夜は、恒例の会社による歓迎会だ。地元の寿司屋の座敷を貸し切って、課長クラス以上の社員と新入社員とが交流する。その日ばかりは、先輩たちがホストとなり、新人たちに酒を注いで回り、談笑する。

 「気軽な会だから」と伝えていたにもかかわらず、その日、ボクが皆のいる座敷に入っていくと、号令をかけたかのように、新入社員全員が崩していた姿勢を正し、正座をして挨拶とともに迎え入れてくれた。「足を崩して、気を遣わずに」と声を掛けつつも、誰が教えたわけでもないのに、そうした行動が身についている若者たちを誇らしく、頼もしく感じていた。それが……。

 4月の半ばが過ぎたある日、ボクが本社での集合研修をのぞきに行った時のこと。特に何をするわけでもないが、ボクは研修に時々顔を出すようにしている。現場に出ると顔を合わす機会が少なくなるからだ。

 研修が始まる前の時間で、講師を務めるベテラン薬剤師が準備をしていた。彼はボクの姿を見て、一瞬、手を止めたが、すぐさまその日の講義内容を白板に記載する作業を再開した。新人たちは、1人でテキストを眺めている者、隣の人と前日の研修について話をしている者など、思い思いに過ごしていた。ボクに気付いてちらりとボクに目を向けた者が数名いたが、それだけだった。

 立ち上がって挨拶しろとは言わない(言いたいけど……)。せめて「おはようございます」の一言を言ってほしい。医療はサービス業、挨拶は大切だ。何より、あの入社式の日の夜の、正座でボクを出迎えた心持ちはどこへ行ったのか。わずか数週間で、この変わり様にボクはがくぜんとした。

 しかし、考えてみれば、そもそも講師のベテラン薬剤師が挨拶をしないのだから、新人たちだってそうなるだろう。「朱に交われば赤くなる」とはよく言ったもので、フレッシュマンは簡単に色に染まってしまう。この先、店舗に配属になれば、新人がどう育つかは店舗の先輩次第だ。まずは、ベテラン薬剤師に「オアシス運動」を徹底するところから始めるべきか。店舗配属後が怖い……。(長作屋)