「今度のゴルフの後、お時間ありますか。話したいことがあるので」。6月のある日、そんなメールがY院長から届いて、ボクは一瞬、凍りついた。先生は、長作屋薬局の近隣に開業する眼科医で、ボクとは3カ月に1回くらいのペースでゴルフに行く仲だ。
薬局のスタッフが何かやらかしたのだろうか。はたまた、別の薬局が医院の隣の空き地を買ったとか……。こういうメールは気になって仕方がない。ボクは即座に「ゴルフの後、空いています」と返信し、さらに「私、もしくは薬局に何らかの問題がありましたなら、ゴルフを待たずにうかがいます」と続けた。そして「明日から2日間はあいにく出張が入っておりまして、今日の夜ならうかがえますが、いかがでしょうか」と送った。このままでは、落ち着いて夜も眠れない。
すると、しばらくして「そうではありません。長作屋薬局の皆さんと長作屋さんにはいつも良くしていただいています。久しぶりにゆっくり話したいと思いまして。急ぎではありませんので、次回ゴルフの後に」と返事が来た。ふーー(汗)、まずは何の話か言ってくれー!
Y先生のクリニックは、7年ほど前に開業して以来、かなり繁盛している。50代後半で子どもは2人、うち1人は医学部に、下の子も有名私立高校と、優秀だ。何事にも精力的に取り組み、ゴルフも上手だし、鉄人レースにも出場、とにかくストイックだ。旧帝大の医学部を卒業し、地域の基幹病院で最も若くして診療科部長となり、手術件数を増やすなど実績も残している。以前、Y先生は「トップになるのは難しいことではない」と話したことがある。いわく「目標を立てて達成すればいいだけ」なのだとか。
そんなY先生だが、最近、覇気がない。1つには忙し過ぎるのだろう。多い日には1日150人以上の患者を診ていりゃ、無理もない。そしてもう1つ、覇気のない理由をボクは、Y先生は欲しいものを全て手に入れてしまったせいだと分析している。お金はある。地域でNo.1の眼科医だという自負もある。日々、患者さんから感謝され、仕事はそれなりに充実している。が、今まで目標を立てて達成して何かをつかみ取ってきた先生にとって、今の生活は平穏過ぎるのではないか。このまま同じ日々を続けていくと考えると焦燥に駆られるのではないか。そういえば先日、先生は「忙しいが手ごたえが足りない」とつぶやいていた。
そんなY先生に、ボクは何をしてあげられるのだろう。例えば、クリニックの広い駐車場に複数の建物を建てて、医療モールを作るよう提案するのはどうだろうか。そうすれば、将来の、医業収入以外の収入を確保でき、今のペースで働き続けなければならない不安を少しは軽減できそうだ。何より、これまで極めてきた「目標を立てて、達成する」能力をいかんなく発揮できる。少なくとも軌道に乗るまでは、きっと生き生きと過ごせるに違いない。医療モールなら、ボクの得意分野だ。いくらでもノウハウを提供できるし、サポートもできる。
ただ、そうなると、今の薬局ではキャパが足りない。空いている隣地を押さえて、薬局を拡張する準備を始める必要がありそうだ!あれ?これじゃあ、「結局、得をするのは長作屋薬局さんですね」と言われそうだ。Y先生の要件は分からないが、次のゴルフまでに先生が元気になれる“やる気スイッチ”を探しておくとしよう。(長作屋)