イラスト:畠中 美幸

 A整形外科診療所では、事務職員として正職員4人、パートタイマー1人を雇用している。平日は8時30分始業で、昼の12時30分から15時30分までの3時間が休憩時間となっている。事務職員の正職員のB子とC子は、休憩時間に入るとすぐに外出して自宅に戻ったり、近くのショッピングセンターに行って2人で外食している。一方、自宅まで距離が遠いD子とE子は診療所内に残っているが、休憩時間中でも清掃業者の立ち入りや電話などがあれば対応しており、必ずしも十分に休息が取れないこともある。このような不公平さが職員の不満につながらないか、F院長は悩んでいる。

 ある日、F院長は休憩時間にいつも外出するB子とC子に、休憩時間中の負担が診療所に残る2人に集中することへの考えを尋ねたが、B子とC子は「休憩時間は自由にできるというような内容が労働基準法に書いてある」などと述べた。確かに、法律にはそのような記載もあるようだが、休憩時間中の業務をD子とE子に押し付けているようでなんとも言えない気分になった。そこで、F院長は顧問の社会保険労務士に相談をした。

休憩時間中の自由行動は無制限に認められるものではない

 顧問の社労士からは、労働基準法第34条第3項において「使用者は、休憩時間を自由に利用させなければならない」と定められている旨がF院長に伝えられたものの、実は無制限に認められるものではないという。具体的には、休憩時間中の外出について許可制をとることも違法ではないことが労働基準法関係の行政通達で示されている(1948年10月30日基発1575号)。同通達では、休憩時間中の外出について所属長の許可を受けさせるのは、事業場内において自由に休息し得る場合には、必ずしも労働基準法第34条第3項に違反することにはならないとしている。特定の職員にのみ休憩時間中の対応のしわ寄せが行っているのであれば、許可制にして外出は輪番にするといった方法も考えられると社労士は助言した。

 そうした方法であれば公平性を保つことができるので、早速、F院長は検討しようと思ったが、そもそもD子もE子は、休憩時間中といえども自ら好んで診療所内に留まっている可能性も考えた。事実、D子とE子は自宅までの距離が遠いことに加えて、積極的に外出や外食をする性格でもない。本人の意向を確認する必要があるが、休憩時間中の負担がそれほどでもないのであれば、F院長の配慮は取り越し苦労となる可能性もある。

 F院長はD子とE子に、休憩時間中に業務対応することについて意見を尋ねたが、両人とも不満を抱いたり深く考えたりしたことがあるわけではないようだった。ただ、2人はたとえ不満があっても少なからず受忍する性格でもある。そこでF院長は将来、人材が入れ替わる際に混乱が生じる可能性も考慮し、対策を講じることにした。

業務対応に手当を支給しつつ休憩時間の体制も整理

 具体的には給与規定を見直し、休憩時間中に診療所内での業務対応が発生した場合、1日当たり定額の手当を支給することとした。加えて、これまでは善意で行ってくれていた業者への対応などは都度報告してもらい、その対応時間分の残業代を支給するようにした。想定外の収入を得ることとなったD子とE子は喜び、金銭支給をする方法に切り替えたことでB子とC子も業務対応してもよいと申し出た。

 B子やC子が休憩時間中に業者対応する日には、D子やE子は睡眠や読書ができるようになり、休憩時間の利用に関する職員間の不公平さを減らすことができた。一方で、休憩時間中の業務対応の頻度が高まれば本当の休憩とは言えなくなる。そのため電話応対は留守番電話対応として緊急時の連絡先を音声メッセージで流すようにした。業者の立ち入り作業なども可能な限り職員が対応しなくてもいいようにして、しっかりと休憩時間を確保できる体制に見直した。

 一連の取り組みにより、「働きやすい職場だ」という声が今まで以上に事務職員から届くようになったという。

(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。

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