Illustration:ソリマチアキラ 

 先日、キャビネットを整理していたら、会社を設立して間もない1998年頃の資料が出てきた。当時、経営者仲間で作っていた会の議事録と名簿だ。見ると、それなりに有名薬局チェーンに成長した企業とその代表者が名を連ねている。300店舗を超える薬局はないものの、30~150店舗ほどで地域に密着して活発に活動していることで知られる薬局チェーンが多い。しかし驚くことに、そのほとんどが既にM&Aにより別の企業の傘下に入っている。

 ここ10年ほどM&Aの波が押し寄せている。以前は、吸収合併される薬局は5~10店舗ほどの小規模薬局が多かった。それが、今や100店舗を超えるチェーン薬局が平然と吸収合併される。しかも最近では、海外の投資ファンドが買収する例まである。

 我が長作屋にも、M&A会社から常に薬局買収の案内が来る。ダイレクトメール(DM)は週に数通届く。宛名にはボクの個人名と「親展」とまで書かれているが、中身は全く親展ではない。そんな一斉に送られたDMでいい案件が見つかるほどM&Aは甘くない。ボクは付き合いのあるM&A会社の担当者に「大手薬局チェーンに話を持っていく前に情報がほしい」と常に伝えているが、決してそんなことはしてくれない。彼らも商売だ。“おいしい”案件はまず大手チェーンに持っていき、長作屋のような中小薬局に持ち込むのは、売れ残りでやや条件が劣る案件だけだ。

 こうした薬局とM&A会社との関係性は、20~30年前の不動産業者と薬局との関係と全く同じだ。医療機関の門前の土地を巡って熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げていた当時、複数の不動産業者と付き合いがあったが、大規模病院前の一等地を紹介してもらえることはほとんどなかった。大手チェーン薬局よりも抜きんでるには、彼らより先に情報を得るか、もしくは彼らが相手にしないような小規模不動産業者が偶然押さえた物件を掘り当てるしかない。

 だからボクは、M&A会社からのDMは、差出人と所在地、とりわけビル名に着目する。名前が知れた大手M&A会社や、駅近くの有名ビルにオフィスを構えるような会社のDMは、適当にしか見ない。一方で住所に「宝ビル」とか「ニューダイヤモンドビル」など古そうなビル名があるとワクワクしてしまう。そうしたビルにオフィスを構えるのは立ち上げ間もないM&A会社で、大手薬局チェーンとパイプがないために手当たり次第、DMを送っている可能性があるからだ。そうしたDMには掘り出し物の案件が出ていることがたまにある。

 ボクはこれまでに、進出したいエリアの薬局を1店舗買収するといったM&Aを複数回、経験しているが、実際、小さなM&A会社が偶然持ち込んだ案件から仲間になってくれた薬局を見つけたこともある。あくまで自分が出店したいエリアに、計算ずくで出店したい。だから複数店舗を有する薬局は買収しない(実は予算的にできない……)。

 そんな長作屋のM&A戦略だが、最近、気になることがある。それは「薬局買いませんか」というDMに比べて、「売却しませんか」という誘いが増えていることだ。折しもAmazonファーマシーの記事が流れ業界中が大騒ぎになっている。そろそろ考える時期なのか。いやいや、まだまだ「宝ビル」に期待しよう。(長作屋)