Illustration:ソリマチアキラ 

 夏になるとD社の雑誌で医薬品産業のランキング号が発行される。各社のデータを様々な切り口でランキングして分析記事と共に2号にわたって掲載、ポケット版まで出るという気合の入った企画だ。ボクはこの特集を読むためだけにこの雑誌を年間購読しているといっても過言ではないが、同じような経営者は案外多いのではないだろうか。

 雑誌が届いたら、いの一番に調剤チェーン企業ランキングのページを開く。本社所在地や代表者名、店舗数、営業利益、経常利益、社員数などが掲載されている。これらは、毎年薬局に届く調査票を基に作成されているようで、上場企業以外は各薬局の自己申告の数値なのだろう。

 長作屋は調査票を返送しておらず、ランキングには掲載されていないが、店舗数や売上高から、同規模の企業の順位を見て、大体の位置を想像して一喜一憂する。店舗数は多いが売上高が低い、スタッフ数が多い、売上高に比して経常利益が高いなど、薬局ごとに特徴を見ていく。そして自社と比較して、「今年もあの薬局に勝った!」「この薬局には追いつけなかった」などと思いをはせるのである。

 近年、ドラッグストアの調剤売上高が伸びている一方で、地方の有力調剤チェーンが減少しているのは、皆さんも感じている通りだ。気になっているのは、ここ数年で急激に店舗数を増やし、目覚ましい成長を遂げている幾つかの企業だ。新規店舗の開発だけでは、このスピードでの拡大は到底不可能で、おそらくM&Aを通じて店舗数や売上高の増加を図っているに違いない。それにしても、店舗数増のスピードが速い。よく体制を整えられるものだと、感心させられる。

 M&Aは実施した後が大変だ。長年の企業風土が店舗やスタッフに深く染み込んでいて、新たな企業風土になじんでもらうのに時間がかかることが多い。自慢ではないが長作屋の調剤内規はかなり厳しい。過誤を起こさず、仮にミスが発生しても患者の手に渡る前に気付けるオペレーションを求めて、基幹病院薬剤部の調剤のお作法をそっくりまねて作成したからだ。薬歴記載についても細かなルールを設けている。

 身だしなみや挨拶にも比較的うるさい。薬局はサービス業であり、中には礼儀作法にこだわる患者もいる。どの年代の方にも気持ちよく過ごしてもらい、薬や健康に関するアドバイスを受け入れてもらう上で必要だと考えている。

 こうした長作屋の企業文化を受け入れてもらうのはなかなか難しい。M&A後の店舗ではスタッフの離職率が高いのが現実だ。もし長作屋が前述の薬局のようなスピードでM&Aを繰り返したら、どこかで破綻するだろう。

 しかし、そうも言っていられない。これまで頼みの綱だった薬価差益はますます圧縮され、大好きな卸との交渉が、その余地すらなくなり、「価格交渉」という言葉は死語になりつつある。医薬分業率は高止まりで新規店舗の開発は難しい。スタッフの昇給やボーナス分を今以上に確保するには、M&Aで企業規模を拡大させるしかない。

 「よし!アクセル全開で、数年後のランキング号ではあの会社やこの会社をごぼう抜きだ!」なんて勢い付いてみるものの、それをしたら長作屋は長作屋でなくなりそうだとも思う。ランキングを見ながら心が揺れ動く日々だ。(長作屋)