薬局経営を始めて25年以上がたつ。起業した当初は経営や財務という概念はなく、収入が幾らあり、支払い後にどれだけお金が残るかといったシンプルな計算だけで経営を考えていた。
当時、院外処方箋発行へと切り替える医療機関の近隣に薬局をつくることが多かったが、その医療機関の医薬品購入額や外来患者数、処方の内容を見れば1カ月の売り上げが予測でき、それに見合った薬局を作れば間違いはなかった。内科診療所であれば処方箋1枚単価は8000円程度、外来患者が1日70人程度でうち8割を応需、22日稼働とするとざっと月商1千万円程度になる。まずまずの薬局だ。
保険薬局では、開局の2カ月後には調剤報酬が入ってくる。一方、医薬品購入費は支払いまでの期間は長く、交渉次第では4~5カ月先にもできたため、その間のお金を次の薬局をつくる資金に充当できた。そうすれば無借金で多店舗展開も可能だった。
今のように複雑な調剤報酬ではなく、処方箋枚数と、さらに薬価差益を確保することさえ気にしていればよかった。売り上げに占める原価(医薬品費)の割合は、処方箋発行元が診療所だと60%程度、病院だと75%を超えることもある。医薬品費の割合が増えると薬価差益の額が大きくなり、運転資金に余裕ができる。
病院前の薬局は、確実に処方箋が得られることと、薬剤比率が高く薬価差益額が大きくなるのが魅力だ。しかも、大規模病院の外来診療時間は夕方4時には終わり、土日は休みのことが多い。スタッフにとって働きやすく、「〇〇病院の前の薬局に勤めている」と言えば聞こえもいい。だから、薬局経営者たちはこぞって病院前の土地を求めた。病院前の好立地に薬局があれば利益はおのずと上がり、会社経営が安定した。薬局に経営は必要ない──。そんな風にすら言われた時代だった。
それがいつの頃からか、すっかり様変わりしてしまった。今では、長作屋は毎月、役員による経営会議を開き、店舗別の収支を時系列に追いかけている。人件費や家賃などの固定費、医薬品購入額、運営に必要なもろもろの経費も店舗ごとに管理して利益を算出している。ノルマがあるわけではないが、年間予算を店舗別、エリア別、ブロック別に分けて進捗・達成率、対前年度比も見ている。
そうした経営陣の苦労とスタッフの頑張りもあって、どの店舗も特定の医療機関からの処方箋の集中率は低く、調剤基本料や地域支援体制加算も精一杯努力して高い点数を目指している。在宅も地域の他職種から指名が入るほど十分にやってるし、OTC薬だってそろえている(売れないけど)。それでも今年はかなり厳しい。頼みの綱の薬価差益も、卸も大変なのだろう、交渉に応じてもらえないまま、長作屋にとって非常につらい数字で妥結している。
国は従業員の給与を上げよと言う。機械化を進めよと言う。給与を上げて設備投資して働きやすい環境をつくりながら、新たな店舗をつくっていくにはどうしてもソロバンが合わない。
このままでは未来が見えない。どうやって次の一手をひねり出そうか。昔、勉強会で偉い先生が言っていた。「処方箋だけでは食べて行けない時代が来る」と。まさに今だ。(長作屋)