
Illustration:ソリマチアキラ
企業規模が大きくなるにつれて、社長の仕事は現場から遠のいていく。会社設立当初は、ボクも薬局業務を手伝っていた。人事も新店舗の営業も内装工事の監督も全てボクの仕事だった。過誤が起これば謝りに行き、店舗から雨漏りの連絡が入れば即座に見に行き修理業者に依頼するなど、何でもこなした。しかし、そうした実務は徐々に減り、最近は新店舗が竣工しても呼ばれやしない。僕が借り入れたお金で作ったのに、だ。
では、社長は何をしているのか。今は、(1)各部署の責任者からの相談や上がってくる案件の最終的なジャッジ、(2)処方元の医師の心のメンテナンス、(3)経営と財務──が中心だ。中でも財務には頭を悩ませることが多い。財務とは、ざっくり言うとうまく会社が回るようにお金を運用すること。事業による収益から事業活動にかかった支出を差し引いたものが利益だが、支出が収入を上回れば「赤字」となり、それが続けば会社は立ち行かなくなる。そうならないよう、お金の使い道を考えることだ。
順調に利益が上がれば、人を増やしたりできるが、見合った人員配置でなければ、人件費が利益を圧迫してしまう。店舗を増やして売り上げを伸ばさないと人件費や物価の上昇に耐えられなくなるが、急ぎ過ぎると資金繰りが追いつかず、借り入れが増えると債務超過になることも。バランスが非常に難しい。
利益をどうするかを考えるのも大切な仕事だ。多額の法人税を払うくらいなら、社員に還元したり設備投資に充てたいと思うものの、先々に備えることも大切だ。例えば、長作屋では社員はもちろん役員の退職金積み立てや医療保険など幾つかの法人保険に加入している。貯蓄型の医療保険では、経営者のもしもの時の事業保障や、社員の入院・手術、死亡時に保険給付金が受け取れ、さらに退職時に解約し、その返戻金を退職金に充てることもできる。しかも、支払った保険金は損金として算入(経費として計上)でき、法人税が減らせる。それが、2019年度の税制改正で法人保険の保険料の損金算入の割合が大きく減ってしまった。全額損金はおろか、4割がせいぜいだ。あくまでスタッフの福利厚生が主な目的だが、節税効果はかなり薄まっている。
保険の解約返戻率は、加入から推移しピークとなるタイミングがあり、その時点で解約するのが最も高くなることが多い。しかし、昨今は複数の企業で経験を積みたいと考える若者が多く、数年で解約せざるを得ないことも少なくない。解約返戻率が低下している中で、そうした事例が増えると、会社の資産が目減りすることにもなる。
皆が頑張って稼いだ大切なお金だ。無駄にはできない。そんなことを考えている時に、証券会社から営業電話が。聞くと、今は米国債がオススメなのだとか。5年債で4%強の利率という。仮に1000万円を4.2%の利率で複利運用すると、5年後には約1228.4万円になる。ふむ、悪くない。
ただ、「投資」にはリスクが伴う。ボクはギャンブルも株もやらない。長作屋の祖母は、何かにつけ「株にだけは手を出すな」と言っていた。いわば家訓だ。とはいえ債権は株ではない。先進国の外国債は比較的リスクが低いと言われる。本当にそうなのだろうか……。頭を悩ます毎日だ。(長作屋)