Illustration:ソリマチアキラ 

 先日、入社2年目の薬剤師Aくんと話す機会があった。その時、彼はつい最近、慢性腎臓病(CKD)患者に処方されたピルシカイニド塩酸塩水和物(商品名サンリズム他)の減量を処方医に提案して“撃沈”したエピソードを話した。

 長作屋薬局では、1、2年目の新人薬剤師の研修を実施しており、そのカンファレンスで、似たような症例が紹介され、注意するよう習ったばかりだったのだ。

 ピルシカイニドは、腎排泄型薬剤であり、腎機能低下例では血中濃度が上昇する可能性がある。ただし、添付文書には具体的な減量基準などは示されていない。そのため研修では、日本腎臓病薬物療法学会の「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」を参照して疑義照会するよう教えられたらしい。具体的には、eGFR60mL/分/1.73m2を下回れば50mg/日に、30mL/分/1.73m2未満では25mg/日に減量するよう示されている。

 ほどなくして、「ピルシカイニド150mg/日」という処方箋を応需したAくんは、患者に検査値を見せてもらい、eGFR43mL/分/1.73m2だと確かめた。長年この用量で服用していたため、疑義照会ではなく、クリニックを訪ねて直接、医師と話そうとしたAくん。受付スタッフに門前払いされかけたが、「この患者のeGFRからすると減量すべきで、学会でも推奨されていると先生に伝えてほしい」とゴリ押ししたところ、勢いに圧倒されたのか、取り次いでくれたらしい。が、「同用量で継続」と、あえなく撃沈……。医師には会えずじまいだったという。

 素晴らしい!ボクは思わず彼を抱きしめたくなった。と、同時に「若いなあ」と思ってしまった。学んだことを患者のために生かそうとする心意気、直談判しようとした行動力はアッパレだ。だが、医師に「減量すべき」と真正面から切り込むのではうまくいかないことも多い。「学びたいので教えてください」など、懐に入り込む術を覚えてほしい。そう話すと、彼は「医師と薬剤師は対等であるべきだ」と不満そうだ。そうかもしれないが、目的は減量してもらうことだ。聞き入れてもらえなければ命に関わる場合もあるだろう。少しぐらいへりくだったってどうともないだろう。

 しかも、医師と“対等”というなら、もう少し勉強が必要だ。「減量の理由は?」と聞くと、自信たっぷりに「eGFRが43mL/分/1.73m2だから」と答える。いや、そうではなくて「減らさないと何が起こるの?」と聞くと、「透析のリスクが上がるような」と、しどろもどろに。さらに、「この薬は何のために出ているの?患者の疾患は?」と聞くと、「心不全……ですかねえ」と、これまたしどろもどろ。うーん。

 「ピルシカイニド」と聞いて最初はピンとこなかったが、サンリズムならボクだって知っている(古い薬は得意だ!)。過量投与で起こるのは不整脈だ。突然死だって起こり得る。もちろん行動力は賞賛に値するが、せめてそのくらいは調べてから出向いた方がよかったかも。しかも、患者は心不全ではなく心房細動だろう。うっ血性心不全はむしろ禁忌だ。

 さらに「その患者はその後、どうなったの?」と聞くと、「知らない」と言う。それには「喝!」だ。患者は過量投与というリスクを抱えて治療を続けるわけだから、そこをフォローするのが薬剤師の務めではないか。なんて思うものの、やはり彼の行動は素晴らしい。ちょっと突っ走り気味だが、その勢い、大事にしてほしい。

 アッパレ!(長作屋)