イラスト:畠中 美幸
A眼科診療所は関西地方にある地域密着型の診療所だ。小規模だが地域内の評判もそれなりに良く、老若男女問わず多くの患者が来院する。職員は全員女性の、ごく一般的な眼科診療所だ。
日常的なトラブルの発生もなく、平穏な毎日を送っていたある日、事務職員の2人がB院長のところに「相談をしたい」と申し出てきた。どうやら言いづらい内容なようで、2人は「今日の診療後、職員全員が帰宅した後に相談に乗ってもらいたい」と述べた。
そんな様子から、B院長は嫌な予感がしていたという。2人に相談事を尋ねてみると、「それぞれが同僚の看護師Cに5万円ほど貸したが一向に返金される気配がなく、返すよう求めてもはぐらかされて困っている」とのことだった。Cはどうやら子どもの教育費などが足らず、「修学旅行に行かせてあげられないかもしれない」と相談し、お金を借りていたようだった。
2人はその状況に同情してそれぞれ5万円ずつ貸したが、当初予定していた期日までに返済はされなかった。さらにその後、話をする度に「来月には必ず返金する」とうやむやにされ続けているという。また、2人が「分割でもいいから少しずつ返金してほしい」と求めても、看護師Cは生活が苦しいことを言い訳に返済は滞っていた。
そこで2人はB院長に、「看護師Cの給与から2人に貸した分を天引きし、そのまま自分たちの口座に振り込んでほしい」と訴えた。Cが同僚から借金をしていたことは寝耳に水で、B院長はショックを受けながらも、ひとまず「一度、Cから話を聞く」と2人に伝え、その場を収めた。
後日、B院長が看護師Cを呼び出して事実確認してみると、Cは2人からの借金を認めた。そして、「今月こそ必ず返します!」と答えたため、事務職員の2人にもそう伝えた。だが、毎月支払いから逃れている状況を鑑みると、Cの発言を信じることはできない。事務職員2人を守る必要性を感じたB院長は、対応策がないか顧問の社会保険労務士に相談した。






