前回、診療所の副院長によるパワハラが発覚し、院長が本人に厳重注意をした話を紹介した。院長はしばらく様子を見守ろうと思ったが、間もなくトラブルが再燃してしまった。
副院長に注意をした翌日、パワハラを受けていた職員から当方にファクスが届いた。「昨日の昼休みに副院長のパワハラに関して注意したと聞きましたが、午後の診療中にこれまでと同様のパワハラを受け、他の職員もその現場を見ています。いったい何を注意したのでしょうか」。
すぐに上記内容のファクスが届いた旨を院長に伝え、「副院長本人は反省していないのが明らかなので1カ月の猶予は必要なく、すぐに厳しい処分が必要」とのアドバイスをした。今後も副院長のパワハラを放置すると重大な事態を招きかねないし、院長の統率力も問われることになる。院長は遂に解雇を言い渡し、副院長も了承した。
それにしても、職員に対するパワハラが院長に知られれば自分の立場がまずくなることが分からなかったのか、また、厳重注意をしたすぐ後になぜ同じ行動をしてしまったのか、結局よく分からないままであった。
転職に伴う経済的・精神的損害の補償を要求
これでようやく一件落着かと思った院長だったが、さらなる“試練”が待ち受けていた。何と、都道府県労働局から「あっせん」開始の通知書が届いたのだ。副院長のパワハラにより退職を余儀なくされた職員の一人が労働局に駆け込み、転職に伴う経済的・精神的損害に対する補償金の支払いを求めてきた。
あっせんとは、労働局が設置した紛争調整委員会のあっせん委員が、当事者の間に入って調整を行う手続きのこと。労働者により申請されても、使用者は参加を拒否しても構わない。また、あっせんで合意が見られなければ手続きは打ち切りとなる。
あっせんの通知書には、届いてから1週間以内に、連絡票により紛争調整委員会に参加・不参加の意思を通知するように記載されていた。院長には、労働審判に精通している弁護士に心当たりがなかったので、筆者と同窓の弁護士の紹介で、クリニックの近くで開業している弁護士と面談してもらうことにした。
弁護士との面談は一時間ほどであったが、労働審判を数多く手掛けているとのことで、その場で代理人委任契約を締結した。
紛争調整委員会はあっせんの日程を指定してきたが、元職員は新たな職場に就職したばかりなので、休みが取れる都合が分かるまでに時間がかかり、結局、通知書が届いてから1カ月以上後の平日の午前中に労働局に出向くことになった。