トラブルの経緯

 医療職は有資格者であるため、職員の中途採用も一般的である。診療所の場合、出産などを契機に病院を退職した後、子どもの成長に伴い生活が安定してくると、夜勤がないパートタイム職員として現場復帰をするパターンもよく見られる。

 こうして採用した職員の中には優秀な人材が多く、経験を重ねているため院長や事務長からの信頼も厚く、つい現場を任せがちになってしまう。だが、業務がスムーズに流れているので院内の雰囲気も良いものと思い込んでいると、予想外の職員間トラブルが発生していることがある。今回紹介するのは、まさにそんなケースだ。

イラスト:畠中美幸

 Aクリニックは内科を標榜し、透析治療も行う診療所であり、院長のほか看護師・准看護師、放射線技師、臨床工学技士、事務などの約20人のスタッフが勤務している。院内は、一般外来や透析センター、レントゲン室など各部署に分かれており、外来業務を除くと職員1人で業務を行っている部署が大部分であった。

 産休中の職員が複数おり、人員不足による業務多忙を解消するため、院長は午前中だけ勤務してもらう透析パート看護職員を採用し、続いて臨床工学技士についても、午前中のパートとして透析経験者を1人増員した。

 いずれも十分な経験を持っており、子育てが落ち着いた時期に入った30代で、技術も働く意欲も申し分ないと判断した。しかし、トラブルの種は思わぬところにまかれていたのである。

経験5年の20代主任、部下は30代のベテラン
 ある日の業務終了後、臨床工学科のB主任から、「年上の部下にうまく指導する方法はないだろうか」との相談を受けた。B主任は新卒で入職し、5年目を迎えたところだった。

 年長者の部下が目に余る行動をしていても、遠慮して注意や指導ができない上司は多いと聞く。一般企業においても、昨今の雇用環境の変化に伴って年上の部下を持つ若い管理職が増え、そのかかわり方に悩むことも多いようである。

 医療機関の場合、部署内での職員トラブルは業務に直接の支障を及ぼす可能性があるため、早いうちに原因を把握し、解消を図らねばならないのは当然である。職員数が少ない部署で発生すると、医療機関全体の業務の流れにもマイナスの影響を及ぼすことになる。今回は、臨床工学科の中で生じたトラブルであり、透析治療への影響度が大きいと考えられた。

 詳細を聞き出すうちに、B主任は涙ぐみ、深刻な状況に陥っていることが分かった。

 判明した事実としては、今回採用した午前中パート勤務の30代の臨床工学技士が、上司であるB主任の指示や指導に従わず、自分の判断で他部門への指示や依頼を行っていた。業務に関する打ち合わせを行おうと提案すると「自分は午前だけ勤務なので」と帰宅したり、また「経験が長いので特に何も教えてもらうことはない」と言い放つこともあり、B主任は大きなストレスを感じる事態となっていた。