看護師長を交えた「三者面談」で打開を図る
 B主任は年上の部下の技術を認めながらも、クリニックの方針や基準に則った業務の流れを遵守してほしいと思い、気付いたときにはこまめに指導するように心がけていた。だが、部下にとってはそれが煩わしく、経験年数の長い自分のプライドを傷つけられたと感じていたのだろう。

 そこで、B主任よりも年長である看護師長と、問題の部下との三者面談の実施を提案した。名目上は「中途採用者の入職〇カ月面接」として行い、現在の悩みや困り事、不満や要望などをヒアリングして、働きやすい職場づくりに生かすという体裁とした。

 こうした名目にした関係から、他の部署に入職した中途採用のパート職員についても同様に実施。今回は、問題が把握できた入職後3カ月を1つの区切りとして面談の場を設け、部下本人の考えを聞き出すことに注力した。

 面談ではまず、B主任がこの部下の経験と技術を認めており、看護師長も評価していることを説明。その上で、クリニックの方針と基準・ルールに従って業務を進めていくことで、安全かつ円滑に診療を行うことができるという価値観を共有してもらうように働きかけた。

 さらに、その職員のスキルの高さと経験が患者満足を生み、自院の評価アップにも寄与していることを伝え、看護師長が今後の部門業務の質向上に向けての提案を行った。

 その1つが、業務連絡シートの作成。B主任が部下と業務の打ち合わせをしようとしても、前述のように勤務時間の都合がつかない場合があり、業務上の情報共有が不足したり、上司・部下の日常的なコミュニケーションが阻害される要因になっていた。そこで、連絡用のシートを作成し、やり取りをしてもらうことで解決を図ろうとしたのだ。連絡シートはB主任と部下の間だけでなく、医院全体で活用することとした。

 問題の部下はその後、自分の仕事が看護師長や患者などから評価されていることが分かったためか、B主任の指示に抵抗せず従うようになった。業務連絡シートについては、気付いたことを欄外にお互いに記入してもらうことにしており、これを活用することで、医院全体として業務の質の向上に役立てようという意識が生まれた。

今回の教訓

 今回の事例では、若い部門リーダーが、自分よりも力があると感じている年上の部下に対してコミュニケーション不全の状況に陥り、年長の看護師長を交えた面接と、業務連絡シートというツールの活用により改善を図った。

 職員が少ない部門では、管理職やリーダーが部下とのトラブルを抱え込んでしまう傾向があるため、院長や事務長が定期的にリーダー層と面談し、部門運営の問題を確認するなど、事情を把握できる仕組みを作ることが望ましい。

 難しい状況であると判断したら、問題となっているスタッフと個別面談を実施したり、今回の事例のようにリーダー層のサポート役として院長が参加する面接の場を設けることをお勧めしたい。その上で、ツールの活用などで部門内の意思疎通を図ることも必要である。

 ただし、人間関係を巡るトラブルは、解決策を実施しても直ちに改善するものではない。効果がなかったと諦めずに、状況の観察を継続し、必要なフォローを適時実施するように心がけたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
齊藤規子(株式会社吉岡経営センター)●さいとう のりこ氏。北大大学院法学研究科修士課程修了後、法律事務所勤務を経て(株)吉岡経営センター(札幌市中央区)入社。人事労務、組織管理、経営改善など医療機関を中心に経営コンサルティングを手掛けている。認定登録医業経営コンサルタント。