開業して間もなくのころ、スタッフに良い職場だと思ってもらいたくて、いろいろなことを試みた。中には失敗したものもある。その一つが職員旅行だった。
福利厚生の一環として職員旅行を計画。せっかくなら、個人ではあまり行くことのできない3泊4日程度の海外旅行にしたいと考えた。旅行代金については、半額を当院が負担し、残りは各職員がこれまで福利厚生用に積み立ててきた分を充ててもらうことに。行先については、自分たちが行きたい場所をスタッフに決めてもらい、医院経営に支障がない日程で計画してもらおうと思った。そうした楽しみが、勤労意欲につながると考えたのだ。
院長・事務長への不満で団結した職員たち
しかし、思わぬ事態に発展してしまった。まず問題になったのが旅行費用の負担。積立期間の長いスタッフは問題なかったのだが、後で入職した職員は積立金が少なく、足りない分を自分で用意しなければならない。
積立金が少ないスタッフの1人にA子という事務職員がいた。彼女は自己資金がなく、旅費を出してくれる身内もいないけれど、旅行には絶対行きたいという。そこで、「医院から前借りをしたい」と言い出した。前例がないこの事態、どうしたらよいのか……。結局、貸与という形にして、返済してもらうこととした。
ここで、もう一つの問題が発覚。実はこのA子が、他のスタッフたちとうまく行っておらず、「A子と一緒に行くのは嫌です!」と難色を示すスタッフが出てきたのだ。その事実を旅行直前に知ったのだが、後の祭り。結局、A子との同行を嫌がっていた職員も参加することとなり、“呉越同舟”の旅になってしまった。
そんな状態で旅行をしたところで、うまくいくはずもない。結局、仲の悪いスタッフ同士でも盛り上がることができる共通の話題といえば、経営者である院長と私への不満ネタくらいしかない。後であるスタッフに聞いて判明したのだが、自由時間には、私たち経営側に対する不満をぶちまけるトークがさく裂し、その部分だけで妙な“団結”が生まれたのだという。