匿名アンケートに綴られた副院長、院長への不満
 院長は、長年勤務してきた職員の相次ぐ退職に危機感を抱いた。相談を受けた筆者は、全体ミーティングや個別面談では副院長のパワハラの実態把握は難しいと思い、職員全員に匿名でアンケートを実施するようにアドバイスした。

 アンケートは「院長と副院長に対する不満と要望」という内容で、3日以内にファクスで当方に送付するように依頼した。アンケートを職員に渡した翌日の夕方までに、全員から(1人は実名で)送付されてきた。

 院長への不満は副院長に対する管理不行き届き、要望は早急な職員の補充や人事考課の実施、ミーティング内容の見直しなどだった。一方、副院長への不満としては「パワハラ」「法令・服務規定違反」「社会常識の欠如」が綴られ、要望としては「パワハラをやめてほしい」という記載が多かった。

 副院長のパワハラの中身として、大声で叱責することやいじめと思われる態度、退職勧奨のほか、終業時刻になったら職員のタイムカードを勝手に押していることも明らかになった。

 ファクスを受け取った翌日の昼休み、事実関係をヒアリングするために、院長は副院長に対する個人面談を実施した。そこでの副院長の言い分と、院長の考えは下記の通りだ。

(1)大きな声で職員を叱責する点
(副院長)忙しい時に職員が指示通りに動かず、声を荒らげてしまった。
(院長)忙しい時にストレスがたまるのは分からないでもないが、そのストレスを職員にぶつけるのはやめてほしい。

(2)特定の職員に対するいじめ
(副院長)自分に対して反抗的な態度を取ることがあり、休みが多く仕事が遅いので、主な仕事から外した。
(院長)自分だけの判断で職員のシフトを決めないように。仕事が遅いのであれば、早くできるように教育しなくてはいけない。

(3)退職勧奨
(副院長)仕事のできない職員は不要と考えている。
(院長)それは副院長の権限で行うべきことではない。

(4)残業の際、職員のタイムカードを勝手に押す
(副院長)仕事を早く終わらせるように注意したが、雑談しながら、残業代を増やすためにのんびり仕事をするのは問題。
(院長)タイムカードを勝手に押すのは法令違反である。

 副院長は「医院のことを考えて職員と接してきたが、パワハラや法令違反を招いてしまったことは残念です」とコメントしたが、十分反省しているという態度は見られなかったので、院長から「1カ月の猶予を与えるが、就業態度を改めない場合は厳しい処分を科します」と通告した。同時に、パワハラを受けている特定の職員に対して、「パワハラに関して副院長に厳重注意をしたので、今後嫌な思いをすることはありません」と伝えた。

 ところが、職員への約束は早々に破られることになる。この後の展開は次回に紹介したい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
二上吉男(株式会社ずのお代表取締役)●ふたがみ よしお氏。1978年慶應大法学部卒業。上田公認会計士事務所勤務を経て1991年に(株)ずのお(大阪市中央区)開設。診療所の開業・運営コンサルティングを手掛け、これまで350件以上の診療所開業を支援してきた。