薬局長と看護師の結託を疑った院長
 次のトラブルは賞与に関してであった。Aさんが、「病院では年4.5カ月(夏2カ月、冬2.5カ月)の支給実績で、前職と同待遇という約束だったのだから、冬賞与2.5カ月分を支払ってほしい」と要求してきたのだ。B氏にも相談済みだという。雇用契約書もなく、「同待遇」という口約束だけだったのが問題とはいえ、開業から間もなく収入も少ない状況で、まだ賞与を出せる段階ではないと分かっているのに、そんな要求をしてくる真意が不明であった。

 AさんとB氏が結託して、Aさんにとって都合のいいことをB氏がアドバイスしているのでは——。そんな疑念を抱いた院長は、B氏と面談することにした。

 B氏は、「Aさんからは、そもそも相談自体、受けていない。賞与のことでアドバイスを依頼されても、それは人事ではなく経営に関することなのでコメントできない。院長の権限にかかわることにはアドバイスできないというのは、当初に申し上げた通りだ」と明言した。

 「インフルエンザの予防接種のときもそうだったが、Aさんは自分の要求を通すために私をダシに使っているのではないか。Aさんには、今後、院外の者にアドバイスを求めないよう指示してほしい。そうすれば、他人をダシにして要求をするようなことはなくなるのでは」。B氏はこう付け加えた。

 院長には、B氏が嘘を言っているようには思えなかった。ただ、これ以上事を荒立てたくないと思った院長は、Aさんに事実関係を問いただすことはしなかった。賞与に関しても、金銭のことでトラブルになるのは避けたいと思い、結局要求通りに支払った。だが、Aさんに対し毅然とした態度を取らない院長の姿勢が、さらなるトラブルを招くことになった。その経過と、一連のトラブルにどう対処したのかを次回にご紹介したい。

(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
二上吉男(株式会社ずのお代表取締役)●ふたがみ よしお氏。1978年慶應大法学部卒業。上田公認会計士事務所勤務を経て1991年に(株)ずのお(大阪市中央区)開設。診療所の開業・運営コンサルティングを手掛け、これまで350件以上の診療所開業を支援してきた。