トラブルの経緯

イラスト:畠中美幸

 前回、勤務先病院の同僚だった看護師を引き抜いて開業したケースで、当の看護師(Aさん)がトラブルメーカーとなってしまった話を紹介した。今回は、このケースの後日談をご紹介したい。

 開業時は受診者数が少なかったものの、院長の経営努力により、その後患者は徐々に増えてきた。そこで院長は受付職員を増員したが、従来の受付業務の進め方では効率が悪くなっており、待ち時間などに関するクレームも増えてきた。そこで、受付職員が、業務内容を改善したいと申し出た。

 これを面白く思わなかったのがAさんだ。彼女には受付の経験はなかったが、受付事務の段取りは開業時に自分が考えたという強い自負を抱いていた。受付職員が、その業務フローの改善を院長に直接申し出たことで、「私を差し置いて相談するなんて」とプライドをいたく傷付けられたのだ。

 ここで、受付職員とAさんの間に感情的対立が生まれた。Aさんは受付職員にあいさつもせず、院長の指示に対しても返事をしなくなった。さらには、それまで受付職員に口頭で伝えていたことを、わざわざメモを書いて渡すなど、受付職員と一切話をしなくなってしまった。

 診療所の雰囲気は日に日に悪化。以前の経緯も含め、腹に据えかねた院長がついにAさんに注意したところ、「パワハラされた」と言って泣き出してしまった。自分の手に負えないと思った院長から、知人を通じて筆者に単発のコンサルティングの要請が来た。

アンケートの回答も個人面談も拒否
 人間関係の問題解決には、それなりに時間がかかる。まず必要なのは、受付業務手順を見直して待ち時間短縮化などを図り、患者離れを防ぐことだった。そこで、受付職員に業務のリストアップを依頼。朝の開院準備から診療、会計終了までの一連の流れを整理し、ファイル管理や印刷物の手配、月1回の集計業務など約40項目に及ぶリストを作成した。

 リストアップ後、受付職員それぞれに、各業務の習熟度合いを5段階評価してもらい、評価の低い項目について何をどう改善すればいいかを提案してもらった。その結果、今まで問題になっていた業務が効率化し、待ち時間も短縮されクレームが減ってきた。

 次に職員全員に「患者の視点で自院を見てください」というテーマでアンケートを行い、それを基に個人面談を実施した。Aさん以外は、すぐに対応できる前向きな意見を述べてくれたが、Aさんはアンケートへの回答も個人面談も拒否した。また、Aさんの採用時に履歴書を確認していなかったので、提出してもらい職歴の欄を見てみると、勤務先を転々としており、トラブルメーカーであったことが想像できた。

 筆者がかかわったことで、もはや好き勝手できないと悟ったのか、Aさんから「結婚するので退職したい」との申し出があった。

 Aさんは院長から慰留されると思っていたようで、慰留されたら、残留の条件として筆者のコンサルティングを断るように院長に求めるつもりでいたようだ。だが院長は、今までのことがあるので慰留する気は全くなく、退職届を出すよう伝えた。その後Aさんは自主退職し、クリニックでは目立ったトラブルは発生していない。