イラスト:ソリマチアキラ

 「ねぇ、○○部長、死んでな〜い?」—─。ある日の昼下がり、席に座っている総務部長を見て、ボクは思わず近くにいた社員にささやいた。

 総務部長は、ペンを持って書類に向かったままの姿勢で目を閉じて微動だにしない。まさかとは思ったものの「息をしていないのでは?」と思わせるような見事な居眠りっぷりだったのだ。

 ボクはいつも社長室にいるので、あまり知らなかったが、社員に聞くと「いつものことです」と言う。彼のみならず、長年顧問を続けてくれている会計事務所の先生も、会社に来てはしょっちゅう居眠りをするらしい。共通しているのは、その寝姿だ。船を漕ぐわけでもなく、仕事をしている格好のまま、静かに寝ているのだという。

 ナルコレプシーとか睡眠障害などの病気ではないかと疑い、知り合いの医師に聞いてみた。すると医師は「年を取ると眠くなるものだ」という。そう言われて会社に戻って社員をじっくり観察したら、居眠り常習犯は一様に60歳過ぎの年配者だった。

 ボクが会社を興したのは15年ほど前。当時、MRだったボクは、お世話になった病院の事務長や薬剤部の先生にお願いして会社に入ってもらった。当時からいる人々は、確実に15歳年を取っているわけだ。

 処方箋発行元の医師にしてもそうだ。当時はバリバリの外科医で、医局で若手医師を怒鳴りつけていたA先生や、やたら若い女性にモテて浮名を流していたB先生は、開業して既に20年になり、70歳に手が届こうとしている。ボクが最初に作った薬局の隣のクリニックのC院長も80歳に近い。あの頃のA先生はとにかく怖くて、会うと常に怒鳴られるのではないかという緊張感があった。C院長は細かい人で、院外処方箋を出すに当たって、ああでもない、こうでもないと、散々注文を付けてきた。管理薬剤師がネチネチと怒られてボクが謝りに行ったことも何度もあった。

 それが今では、誰も彼も、すっかり好々爺だ。年とともに、みんな一様に丸くなっているのだが、居眠りに関しては一様とはいえない気がする。明らかに、居眠りをする人としない人がいる。その違いは一体、何か─—。

 ボクの高性能パソコン(頭)で分析した結果、ある法則が浮かび上がった。それは、若い頃から、外へ向かって発信したり新しいことを自ら行うような性格や立場だった人は、年を取っても決して居眠りをしない。片や、与えられた仕事を処理していく「待ちの仕事」をしていた人たちは、年とともに居眠りが多くなる、というものだ。

 この法則に当てはめれば、今、薬局で処方箋が来るのを待っているだけの薬剤師は、きっと年を取ったら居眠りをするに違いない。一方で、在宅だ、健康ステーションだといって、いろいろなことを始める薬剤師は、居眠りをしないのだろう。

 最近、薬局に行って若い薬剤師を見ると、「30年後、こいつは居眠り組、あいつは居眠りしない組」と、ついグループ分けしてしまうようになった。そう、還暦を過ぎて居眠りをするようになるかどうかは、30年前から決まるものなのだ。

 さて、今日もまた総務部長が居眠りをしているかと思うと、社長室にいても気になって仕方がない。居眠りしている上司がいれば、社員の士気が下がるのは当たり前だから。今日こそは勇気を出して起こそうか。でも、年上の総務部長には、社長といえども注意しづらいものだ。うーむ、どうしよう……。社長は結構、ツラいのだ。(長作屋)