今回ご紹介するのは、耳鼻咽喉科の診療所で起きた勤務トラブルだ。
退職者の補充のため、平日午後、土曜にも勤務可能なパートの事務職員を募集したところ、30歳代後半のAさんが応募してきた。動機は「子どもの学費のため」。「学校行事でお休みをお願いする場合もあるかもしれませんが、どの時間帯でも勤務可能です」と話していた。
ブランクもあるが医事経験者であり、簡単には辞めないだろうとの判断もあって、平日午後と、月2回の土曜勤務ができることを確認した上で採用した。
ブランクの影響か、戸惑いもあったようだが、2カ月目には受付など基本業務に対応できるようになった。勤務表を作成するため翌月の休みの希望を確認したところ、「学校行事で1日お休みがほしい」と要望。快く許可した。
患者が残っていても「もう上がってもいい?」
特に問題も起きず、試用期間の3カ月を過ぎようとした時、勤務当日に急きょ私用で休みたいとの申し入れがあった。理由は本人や家族の病気などではないという。「私用での急な休みは他の職員に迷惑をかけるので、前から分かっていた予定であれば早めに伝えてほしい」と話した上で休んでもらった。平日午後と土曜に勤務できるパートは少ないので、上手に働いてもらうようにしなければならない。
試用期間が終了し、Aさんは事務の戦力として考えられるようになった。だが、この頃に問題が勃発。常勤のBさんから、「Aさんのことで相談したい」と申し入れがあった。
「午後や土曜勤務時に、診療終了時間になると、患者さんが残っていてもAさんが『もう上がっていい?』などと聞いてきます。いったい、どういう契約になっているんですか」「土曜勤務も月に1回しかできなくなると話していますけど、それでいいんですか」——。Bさんは筆者に不満をぶちまけた。
36協定は結んでいるし、残業が発生することはAさんに話してあり、契約書にも記載してある。どうも自分の都合に合わせて勤務したいようだ。この状況が続けばBさんの負担も増え勤務バランスが崩れる。Aさんを呼んで、早速確認した。
筆者 仕事はどうですか?
Aさん 慣れてきました。
筆者 患者さんが残っているのに帰ってよいかと頼みましたか?
Aさん 何回か頼みましたけど…。
筆者 こちらの許可を得てからお願いします。
Aさん パートでも?
筆者 ここでは、勤務時間変更のルールは常勤もパートも同じです。業務が終わるまで仕事をしてください。ところで、契約通り、土曜日に月2回出られますよね?
Aさん 1回に減らしたいと思っています。いろいろあって。
筆者 働き始めたばかりで、いきなり契約内容の変更は困ります。
面接では、何とか採用されたいとの思いから「はい、何でもできます。頑張ります」と良い返事をするが、試用期間が過ぎて正式採用になると、自分の都合に合わせて勤務変更を訴える——。これは、特に家庭を持つパート職員の場合によく見られるパターンである。
何か急な事情が生じたのであれば致し方ない部分もあるが、中には約束した業務ができないと平然と答える人もいて、「今辞められると困るだろう」と判断しているフシもある。試用期間が終了してから勤務変更を要望されると、判断は難しくなる。解雇するには相当の理由が必要となるので、簡単に辞めてもらうことはできない。Aさんには、とりあえず、当初の雇用条件で頑張ってもらうよう話した。