後に妊娠したことが分かり、「出産後も働きたい。公務員はそういうことも可能だった」と申し出てきた。私は、「あなたの気持ちは分かった。もちろん、ここで働き続けられるのであれば、ぜひそうしてほしい」と伝えた上で、そのためには0歳児の預け先の保育園を探す必要があり、ご主人とよく話し合ってきてほしいと伝えた。
その後、いろいろ考えて現実的に難しいことが分かってきたらしい。ご主人も難色を示したようだ。結局、彼女は退職する道を選んだ。
今回の件を振り返ると、やはり、採用の段階で「大卒者だから」という意識が働いてしまったことは否めない。学歴に関わらず人物本位で、という方針で臨んだつもりだったが、必ずしもそうなってはいなかった。
学歴、経歴も患者応対もパーフェクトだった彼女に足りなかったのは、「扶養の範囲内で働くことがどういうことか」という世の中の常識と、医療機関という専門職中心の組織で自分の立ち位置を認識する謙虚さだったのかもしれない。
専門職集団の医療機関の中で、資格手当などが付かない事務職員の給与は、看護師などと比べるとどうしても見劣りしてしまう。医療機関の内部にいると、「そういうものなのだ」と理解しやすいが、医療機関での勤務経験がなく、実力のある人が事務職員として入職してくれば、そうした点を不可解に思うこともあるだろう。採用面接の際にも、その辺りをはっきりさせておく必要があったのかもしれない。
医療機関において、「有資格者であるか否か」が、働く側の心理にも大きな意味を持つことを痛感した。彼女には幸せになってほしいと願い、退職時にはきれいな花束を渡した。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカルOnlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業17年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。